第二話 身分差を感じさせない御方

『バチッバチッバチッ』


『ぎゃはははっ♪』


『今回は稼げたな♪』


陥落させた交易拠点だった豊かな街の周囲で、焚き火を囲みお互いの戦利品を自慢しながら、傭兵の方々が上機嫌で酒盛りを開いています。


「ぐすっ。お、お母さん。お姉ちゃん…」


「大丈夫よ。だけど周りの人達とは目を合わせないようにしてね」


「う、うん。お母さん」


日没後に樽の下の地下貯蔵庫から、以前からの知り合いの母親と姉妹の三人家族に出て来てもらい、今回の戦いにおける私の戦利品である奴隷として付き従ってもらっています。


『魔法使い殿』ビクッ!


出来るだけ焚き火を避けて暗がりの中を焼け落ちた街から離れようとしていましたが、私に対して声を掛けられるとまだ幼い妹さんが小さな身体を震わせました。


『はい。騎士様』


今回の雇い主に仕えている若い騎士様が、私に対して笑顔で頷かれまして。


『今回の攻囲戦における魔法使い殿の戦いは見事でした。まるで大切な家族の命でも懸かっているかのように常に最前線で果敢に戦われた様子は、我が主であらせられる伯爵閣下も高く評価なされていられました♪』


城下町に一番乗りをしませんと、他の傭兵の方々に女性だけしかいない三人家族に危害を加えられる恐れがありましたから、攻囲戦では常に最前線で戦いました。


『身に余る御言葉を賜り恐悦至極に存じ上げます。騎士様』


恭しく深々と御辞儀をしながら答えた私に対して、騎士様は満足気な笑みを浮かべられまして。


『魔法使い殿はまだお若いのに礼節も弁えていられます♪。後ろの女性達は戦利品の奴隷ですか?』


『はい。見た目の良い三人家族を戦利品として獲得出来ました』


騎士様は私が連れている三人家族に対して、特に関心は無さそうな視線を向けていられましたが、何かを思い出したような表情を浮かべられまして。


『失念していました。魔法使い殿が今回の攻囲戦の働きによる正当な対価として戦利品の奴隷を獲得されたと記録をして、所有権に関する公文書を発行しなければいけません。天幕まで付いて来て頂けますか?』


…時として生真面目な御方による好意の方が、悪意よりも厄介だと感じます。


『はい。御手を煩わせ申し御座いません。騎士様』


『お気になさらずに魔法使い殿。自分達は同じ戦場で戦った戦友なのですから♪』


平民身分の私に対して身分差を感じさせない騎士様は、主君であらせられる伯爵閣下に忠実に仕えられる善良な人物なのは間違いありません。

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