林檎好きの魔法使い

@curisutofa

第一話 かつては交易拠点として栄えた焦土にて

『シャリッ』


『パチッパチッパチッ…』


『少し前までは活気のある交易の拠点都市だったのですけれど、滅びる時は呆気無いものですね』


夕闇の迫る攻め落とされて焼け落ちた街並みを眺めながら、戦利品の一つである林檎を齧りながら勝者の感想を独りごちていますと。


『おう、魔法使いの兄ちゃん。金や女を漁りに行かないのか?』


今回の戦いで同じ陣営に雇われた髭面の傭兵の男性が、酒瓶を片手に上機嫌で話し掛けて来られましたので。


『一ヶ月間に及んだ攻囲戦の後ですからね、領主の館に戦利品を求めて殺到されている傭兵の方々は殺気立っていますから、金目の物の奪い合いで一緒に戦った味方に殺されたくはありません』


焼け残った樽の上に腰掛けて林檎を食べている年下の魔法使いである私の返答に、経験豊富な年長者の傭兵は酒瓶から豪快に酒を飲まれまして。


『グビッグビッグビッ、賢い魔法使いの兄ちゃんだな。勝ち戦で一番危ないのは、味方同士での戦利品の奪い合いだからな。無理をしないのが傭兵家業で長生きする秘訣だ。次の戦場でも味方だと良いな♪』


『同感です。縁があれば次の戦場で味方として会いたいですね♪』


笑顔で話した私は、年長者の傭兵が遠ざかり周囲に誰も居なくなったのを確認しましてから。


「暗くなりましたら、貴女達は私の戦利品という形で連れ出します。外では奴隷として扱いますので、我慢して下さい」


小声で話した私が乗っている樽の下に隠されている、地下貯蔵庫の中から少女の声による返事があり。


「ええ、解っているわ。その…、ありがとう。危険を冒して私達家族を助けに来てくれて」


西の地平線に沈む夕陽を眺めながら、焼け落ちる前の活気のあった街並みの様子を思い出しまして。


「本当は攻囲戦の始まる前に知らせる事が出来れば良かったのですが、今回の雇い主は用心深い御方でして、貴女達が暮らしている街を攻めるとは直前まで知らされませんでした。私の方こそ申し訳ありませんでした」

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