番外編の魔導書

神凪紗南

プロローグ

 ソファに座り、一心にテレビの画面を見ている女性。その後ろのドアがガチャリと開く。

「ただいまー、美桜ー」

手にレジ袋をぶら下げた男性は、そう呼びかける。

「灰都、おかえりー」

美桜は左に振り向く。それと同時にリモコンの一時停止ボタンを押した。灰都は持っていたレジ袋をソファの前のテーブルに1回置く。

「もう遅いし、お弁当でよかったか?」

「全然いいよ。ありがと」

「デザートにプリンも買ってきた」

「灰都大明神様ありがたき幸せです」

「大げさ」

拝む美桜に、灰都はくすっと笑う。

灰都はふと、テレビの方を見る。

画面には、昔の欧州の服を着た男女がいる。女性に対して、男性の方がひざまずき、女性の手に口づけをしている。

「これって、美桜が好きなゲームだよな」

「そのアニメね。人気作だから」

「前見せてもらったけど、この人って、こんなことするキャラだっけ。この眼鏡かけているキャラって、冷たいというか毒舌だった気がするんだが」

「あー、今入れ替わっているからね」

「入れ替わ?」

灰都は首をかしげる。

「これ番外編なんだけど、攻略キャラ同士が魔導書で入れ替わっちゃったって話なんだよ。キャラクターの違う一面を見れて、けっこう面白い」

「イケメン同士が入れ替わって、何か意味あるの?男女で入れ替わる方が定番じゃねえ?」

灰都の発言に、美桜はじとっとした目で見る。

「灰都くんは女の子と入れ替わりたいんだー」

「その甘ったるい言い方やめろ。一般論だろ」

「まあ、これに関しては意味はないよ。ただの番外編だし」

「ふーん」

「それで灰都は入れ替わったら、どうするの?やっぱり女の子の胸揉む?」

美桜が自分の胸を持ち上げる。

「ばっ。するかよ、んなこと」

灰都は顔が赤くなり、目をそむける。

「女の私としても、なかなかな柔らかさですよ」

「…なら」

「ん?」

「美桜となら、揉むかも。美桜でしか揉まねえ」

顔を逸らしたまま、そうつぶやく。

「それはそれで変態チックな発言」

「だから、俺以外になるなら、美桜にしかならねえの。他の奴になったら、美桜と一緒にいられねえし」

「彼氏に一途に愛されていて、彼女はうれしいです」

美桜は灰都の肩から手を下ろし、ぎゅっと抱きつく。

「私も灰都にしかならないよ。灰都しか好きにならない」

「美桜…」

灰都が振り返り、2人は見つめ合う。そのまま、2人の唇が近づき。

『私の体で何をしている?』

静止画だった画面が動き出し、声も聞こえ出す。美桜の手がリモコンにかかっていたのだ。

「好きなアニメ見ていた最中だったな。悪い」

「あー。もうご飯食べちゃおー」

いい雰囲気だったのが、霧散し、気まずくなり、それぞれ動き出していった。

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番外編の魔導書 神凪紗南 @calm

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