040 一片《ひとひら》の勇気を握り締めて。

「総司君、落ち着きましたか?」


[ピコン。何やってんのよ、総司...。

 お姉ちゃん恥ずかしいんですけど]


《そーじのどげざはげーじゅつだなー》


「あはは....すいません」


 衝撃的な事実を知った俺は、取り敢えず土下座した。それはもう、流れるような動きで。

 Lvも上がって身体能力が向上しているからだろう、今までで一番綺麗な所作だったと思う。土下座だけど。


 突然の行動に時雨さんも愛菜姉ちゃんも驚き、カウンターの上で寝ていた月が起きた。


 時雨さんに席に戻って説明すると、笑って言われた。


『私の過去がどうであろうと、総司君は親友夫婦の息子であり、私のですよ』


 と。友人だとさらりと言う時雨さんが、とてもカッコ良くて、嬉しくて。

 やっぱり凄い人なんだなって改めて思った。

 因みに愛菜姉ちゃんはドン引きして、時雨さんに平謝りしてた。[馬鹿な弟ですいません]って。マジでスンマセン。


「じゃあ、総司君も落ち着いたところで、話を戻しましょうか。

 どうやら月君も起きたようですしね。

 初めまして、御堂院 時雨といいます。

 総司君とは友達で、喫茶店のマスターをしています」

《おお?おー!そーじのともだち?つきといっしょだなー。つきはつきなり、すらいむなり!》


 なんか月の中で流行ってるよな、その台詞。


「宜しくお願いしますね、月君」

《おー!しぐれ、よろ!》

「こら!月!時雨さん、すいません。まだ子どもなので」


[ピコン。月ちゃん、ちゃんとご挨拶出来て偉いね!]


 愛菜姉ちゃんって、月に甘いよな。

 俺も人の事は言えんけどさ。


「大丈夫ですよ、総司君。

 可愛いらしいですね。確かに生まれて間も無いのでしょうが...。


 そうですね、先ず、魔物と契約して使役する探索者は、確かに居ます。

 〈テイマー〉と呼ばれるjobを持つ者達です。

 彼等は魔物と戦闘し、屈服させて〈使役契約テイミング〉します。チカラによる支配、と言えば分かり易いでしょうか。

 ダンジョン内のみ活動出来る仲間、と言った感じでしょうか。

 私が知るテイマーの最上位の者でも、使役する魔物の数は3体まで。もちろん、そのテイミングされた魔物達はそれぞれが強力な戦力となります。

 ですが、悪い面も勿論あります。

 先ず、テイミングされた魔物はテイマーの魔力と紐付けされるので、テイマーの最大魔力量によっては、弱くなる可能性がある事。


 二つ目、テイマーは他のjobに比べてテイマー自身の成長度合いが低いので、自分自身が弱点ウィークポイントになりやすいのです。

 多くのテイマーは、攻撃と防御、それぞれを主とした魔物を同時にテイミングしています。

 その時点で二つの枠が埋まる事になるのです。


 三つ目、テイマーは、テイミングした魔物とのコミュニケーションは、命令するのみだといわれているのです。

 どのような状況であれ、テイミングされた魔物は命令に背く事は絶対に有りません。

 それが例え、命を賭けるほどの命令であっても、です。ですので、魔物には感情など無い、と言われており、テイマー達もテイミングした魔物を〈道具〉として扱っているのです」


 道具かよ...。いや、テイマーの人達の在り方がどうとかでは無いんだけど、俺は月を知ってしまったから、そんな見方は出来そうには無いや。


 珈琲を一口飲んだ時雨さんは、カウンターでポヨポヨと遊ぶ月に、優しい視線を向けてから、再び話し始めた。


「今話したのがテイマーの、探索者が知っている常識でしょうか。ですので、


 月君と会話する事が出来る、コミュニケーションが取れる、一方的な使役契約では無い、ダンジョン外で活動している。


 これははっきり言って、探索者、ダンジョンの歴史上、初めての事態なのですよ。


 それと同時に、とても危険な事でもあるのです」


 そう言い切った時雨さんの真剣な表情を、眼差しを、俺は。


「もちろん、理解した上で、時雨さんにお話させてもらいました。


 俺は、

 俺は家族を守る為ならば、

 探索者協会だろうが世の中だろうが、

 抗ってみせますよ。

 そのくらいの理不尽ならば、受けて立つ。

 そう、決めましたから」


 譲れないモノをポケットに、

 一片ひとひらの勇気を握り締める。


 時雨さんの、

 世界最高峰の強者の眼差しは、

 とても穏やかでいて、優しく、






 はなはだ、恐ろしい。






無礼なめるなよ、小僧?」



 甘ったれた戯言だと言われようが、俺は。



「アンタこそ侮る嘗めるなよ、俺の覚悟を」



 俺で在り続ける。

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