あゝ、今日も煙草の煙が目に沁みる。

時雨(旧ぞのじ)

デビューは突然に。~ノリと勢いとちっぽけな勇気を振り絞った一歩~

001 終わって、始まって。

 がらんとした自宅のリビングで、余儀なく買い替えたばかりの真新しい1ソファの背凭れに身体ごと、いや、やっと終わった面倒事もひっくるめて一旦預けてしまえ、とばかりにグググッと背中を押し当てた。仰いだ天井には、星の形をした蛍光シールが光る訳も無く、俺を見ている。


 俺は三度みたび独りぼっちとなった。

 親と。

 家族同然の姉と。

 そして、妻と...いや、元妻か。


 ここまでくると独りぼっちの星の下に生まれたのかもな、なんて蛍光シールのお星様に八つ当たりしてみたら、無意識のうちに溜め息が出る。


 三度目の別れは離婚だ。


 しかも、浮気だった。


 相手の間男はC級ダンジョン探索者で、俺が昼間働いている間に元妻の攻略にも励んだらしい...阿呆か。


「子供が出来たの...」

「アナタの子じゃないわ」

「....離婚しましょう」


 淡々とした元妻の表情が印象的だった。

 

 1年の結婚生活もその内半年間は不貞で裏切られていて、残りの内3ヶ月は離婚協議に費やした。

 そんな長かった話し合いも漸く終わった。

 ソファから立ち上がって、マンションのベランダに出て煙草を咥えて火を点けた俺は、しっかり吸ってから空に向かって紫煙を吐き出す。


「あぁ〜、やっと終わったなぁ〜」


 ドロ沼化まではしなかったが、結構ごたついた離婚だったと感慨深くなる自分がいる。


 間男はC級探索者で、ある程度の富と力があったからか、何かと言い訳がましい事を言ってきた。


「貴様が沙織さん元妻蔑ろにしていた!」

「俺は寂しさから彼女を救ったのだ!」

「彼女はお前には相応しく無い!」


 うん。「子供ガキかよ!?」とか思ってたら本当にまだガキだった。

 18歳だって。

 もう、さ。

 その間男の親御さんが可哀想で可哀想で。被害者の俺が見ても「阿呆な息子をもつと大変ですね」なんて心の中で同情したし。


「この度は私達の息子が取り返しのつかない事をしてしまい、誠に申し訳有りませんでした。慰謝料等は全て支払いに応じさせて頂きます。」

「総司君。うちの沙織がこんな事をしでかしてしまって本当に申し訳無い。私達も全て応じさせてもらう。すまなかった。」


 元妻のご両親には可愛がられていた方だったと思う。親のいない俺を実の息子の様に接してくれていたし。ただまぁ、不貞とはいえ孫が出来た事もあるしな。例え相手が俺じゃなくても。

 間男の親御さんは微妙な顔していたがな。

 だってまだ18歳だからねぇ。見てくれは良いけど、態々アラサーの嫁とか、不貞行為する嫁とか。


 慰謝料云々はちゃんと貰ったし、財産分与も比較的多くなった。このマンションも貰った様なものだし。

 だけど1つ問題があって、元義父さんが俺の働いている会社の重役で、今回の事で俺の立ち位置がかなり微妙になった。

 直接では無いけど上司を通して「自主退職しろ」的な事を言われてしまったことかな。


 まぁ、もう辞めたけど。


「仕事、探さないとな。面倒くさい...」


 そう言って咥えた煙草を吸うと、今度は下を向いたまま、紫煙をゆっくり吐き出す。


「目に、沁みるなぁ。俺は悪い事してないはずなんだけどなぁ」



折谷総司 《おりや そうじ》♂ age:30

job:会社員→無職new!

skill:なし

title:×1new!



 こうして、長いようで短かった結婚生活が、短かいようで長かった話し合いで終わりを告げ、先の見えないこれからが始まった。


「しょうがない、明日はに行くか」

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