第2話:戦銃姫

 今からずっと昔のこと。

 時間にすればおよそ100年以上もずっと昔の話。


 それまで平和だったここ、ヴァルハラ大陸は突如として謎の敵による侵略攻撃を受けた。


 その侵略者は遥か地中深くから現れて、次々と大都市を攻撃。

 人類も突然の襲撃に対処した。

 だけど異敵の高度な文明と技術力の前では人類はあまりにも無力だった。


 かつては最大の脅威とさえ謳われた魔法もすっかり地に落ち、剣と槍……力の象徴でさえあった刃も届かない状況に人類は絶望した。


 “このまま成す術なく、訳も分からぬまま滅ぼされてしまうのだろうか……?”


 否……断じて、否である。

 人類はその数をどんどん減らしながらも、最後まで抵抗を諦めたりはしなかった。

 人によっては無駄な足掻きと揶揄するだろう。

 その無駄な足掻きこそが、人類の勝利の鍵を掴ませたに他ならない。


 人類は、異敵――ヘイムダルの技術を盗み、魔法とを組み合わせることで、新たなる兵器を手にした。


 それは人類と同じような姿形をしているが、一人で城一つは落とせるほどの圧倒的能力を兼ね備えた、美しき少女達……人型凡庸決戦兵器、それが戦銃姫ヴァルキリーである。



「――、ところで団長。一つお伺いしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」

《ん? どうかしたのか?》

「はい、どうか包み隠さずお答えくださいね――また新たに戦銃姫ヴァルキリーを雇用するというのは、本当でしょうか?」



 次の瞬間、団長の顔色は目に見えてはっきりと変わったのを私は当然見逃さない。

 やっぱり、本当なんだ。

 本音を暴露すると、そんなわけないじゃないか、と言ってほしかった。


 俺にはイクスがいるから大丈夫だよ、と……イクス以外の戦銃姫ヴァルキリーなんて必要ないよだから結婚しよう――そう、言ってほしかったのに……!


 現実はとことん、私達戦銃姫ヴァルキリーに対してひどい仕打ちばっかりする。



「どうしてですか?」

《ど、どうしてって……それはもちろん、戦力を増強するためであって》

「私では不満ですか?」

《不満なんて、そんな……》

「では、私以外の戦銃姫ヴァルキリーはもう必要ありませんよね?」



 自分で言うのもなんだけれど、私は部隊の中じゃ一番強いと自負している。

 団長は、団員同士での喧嘩や殺し合いを酷く禁忌としている。


 だから模擬訓練をすることはあっても、本当の殺し合いをしたことは一度としてない。


 それは戦闘用ではなくて、あくまで訓練用。

 実力の半分にも満たないスペックでの戦闘だから、それが本気の実力かと問われると難しい。


 でも、例え団員全員と総当たり戦をすることになったとしても、絶対に負けないという自信が私にはある。


 はじめて団長の初期団員としての面子にかけても、こればかりは誰にだって譲らないし、譲れない。



《で、でもそうなるとイクスに全部負担が掛かってしまうだろう》

「私ならば全然問題ありません」



 団長からの命令だったなら、100日間休みなくずっと戦えと言われたって遂行できる。


 もっとも、私の団長はとっても優しい人だ。

 そんなことは天変地異が起きたとしても絶対に言わないけれど。



《駄目に決まってるだろ。さすがにそれは容認できないぞイクス。お前は俺の大切な仲間なんだ、もしもお前に何かあったらって思うと……ゾッとすると》

「団長……」

《今日はどうしたんだ? なんかいつもと違うって言うか。調子が悪いって言うか……》

「……申し訳ありません。ただ、時々不安になってしまうんです。私は、果たして団長のお役に立てているのかと……」



 そこまで言って、ハッとした。

 多分私の顔は、鏡を見なくても真っ青になっている――と思う。

 つい、勢いのまま弱音を吐いてしまった。

 何をしてるの私は……よりにもよって団長の前で弱みを晒すなんて。

 このままじゃ団長に嫌われてしまうじゃない……!

 団長は優しい、だけど強い戦銃姫ヴァルキリーの方がいいに決まってる。

 お願い団長、どうか……私のことを嫌わないで!

 そんな私の思いをくみ取ったかのように団長は、ふっと笑った。



《そんなことで悩んでたのかよイクスは。心配しなくてもイクスが役立たずなんて思ったことは一度だってないよ》

「団長……!」



 あぁ、この人は……どこまでも優しすぎる。

 私が一番言ってほしい言葉を言ってくれる。

 これだけでもう、私の悩みはきれいさっぱり跡形もなく消失した。

 団長の言葉は、私に大きな力を与えてくれる。

 それからしばらく、団長との何気ない談笑を楽しんだ。

 こんな日がいつまでも続けばいいのに……そう、願うのは愚行だろうか。


 当時悲惨だった時代とを比較すれば、人類は遥かに明るい未来を歩んでいると、少なくともそう感じている。


 その証拠にかつては一つだった国も、今では九つの都市で形成されるようにまで人類は繁栄したし、少しずつ。本当に微々たるものだけど確かに、人類は地上の覇権を取り戻しつつある。


 でも、現在でも戦争の真っただ中にある。

 いつ、どこで、誰が死ぬかわからないのが現状だ。


 明日にはもしかすると……――恐ろしい考えをした自分に、私は頬をぴしゃりと叩いた。


 縁起でもないことを考える暇があったら、もっと他のことを考えていた方がよっぽど有意義だし、何より私が絶対にそんな結末になんかさせない。

 団長を守るのは、この私なんだから……!

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幻想の撃鉄少女-バレットガール-~団長様、どうか私に心配をかけさせないで!~ 龍威ユウ @yaibatosaya7895123

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