ex 精神汚染

(何故此処に赤坂が……宿泊先だったのか? ……いやそんな事はどうでも良い)


 大事なのは、赤坂伊月が居た結果どうなったかだ。


(不幸中の幸い。想定できる中で最も望ましい展開になったか?)


 ジェノサイドボックスの一件の神崎と同じように、今回のアンノウンの出現ポイントに赤坂伊月が居た。

 故にアンノウンを赤坂が破壊し反応が消滅。魔術の反応は強化魔術をなんらかの理由で継続して使用している……といったところだろうか?


「出動ご苦労様! でも遅かったわね。出現したアンノウンはこのエリートが一人で倒したわ!」


 そう言って軽くドヤ顔を浮かべる赤坂。

 何もおかしな所は見受けられない。普段通り。

 非常に優秀だが自己顕示欲が高く調子に乗りやすい、自分もある程度知っている若手。

 彼女が倒したというのだから、まず間違いなく倒しているだろう。


 ……そう思いかけた。


 だが疑問が残る。


(アンノウンの出現から消滅までほんの僅かな時間。それから俺達の到着までそれなりに時間が経過している。もし赤坂がアンノウンを発見し倒す事ができていたのなら……管轄の北陸第一に連絡の一つ位は入れる筈だ)


 赤坂伊月は優秀である。

 自己顕示欲が高く調子に乗りやすいが、ディルバインの事を本部に黙っていてくれているようなイレギュラーを覗けば、基本驕らずにやるべき事はしっかりと熟す。


 その彼女が事此処に至るまで何の連絡もせず、おそらくは現場を離れようとしていた。

 ……これは明らかに異質だ。


 そしてそう思ったのなら……疑うべきである。


(……普通に目上の者として怒れるような、そういう事情で有ってくれ!)


 そう祈りながら、魔術を駆使して文字通り見方を変える。


 アンノウンと接触した一般人と接する際に必ず行われる、汚染濃度を調べる為のやり方。

 そして移るのは最悪な光景。


(……どす黒い、か)


 いかに春先に自分達が戦った杉浦鉄平の汚染濃度が薄かったかが分かる程に、今の赤坂は完全にアンノウンに汚染されている。

 結果的に本来の赤坂と同じ言動をしているだけで、おそらくそこに彼女の意思は介在していない。


 つまり……アンノウンは今だ倒されてはいない。


 そしてああいう話をしたばかりだからだろうか?

 現時点で大した根拠も無く、それでもとある単語が脳裏を過る。



 キリングドール。

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