ex 招かれざる客 上
ホテルにチェックインした後、赤坂はベッドに腰掛けながら思考を巡らせる。
その中心に居るのはユイの事だ。
彼女が見せている全うな人間の態度は自分達を欺く為の物だと、今でも確かにそう言い聞かせながら、それでも考える。
(……あの時のユイは、明らかに無理をしていた)
あの時。
杏が運転する車に乗り込む際に、人の姿に戻ったユイは明らかに何でも無いように装って普通を演じていた。
その内にある本心を隠す為の仮面を被っていた。
今日半日の様子を見ていても何も分からなかったが、ただそれだけは確信を持って理解できたと言える。
では、その仮面の中には何があったのか。
(……自分の身に危険が迫っている事への焦り。いや、やっぱりそれは違う。その場合そもそも異世界の連中が連れ戻しにくるならあの子にとって都合が良い筈だから。じゃあ自分が火種になる可能性が本部とかにバレるかもしれないっていう焦り……にしては私への警戒心があまりに無さすぎる)
それどころかあれだけ弱りきった状態でも、赤坂を含めた周囲の人間を警戒するような様子は無かった。
……そして、そんな一挙一動までが全ての計算され尽くした演技ではないのだとすれば。
「……自分の事より人の事を考えてるのか」
消去法でも。
そして自分自身で見て感じた直感でも、そういう答えに辿り着く。
辿り着いてしまう。
見せられた弱みがその答えを叩きつけてくる。
「……良くないわね」
あの状態のユイが見せた弱さを、偽りだと捉える事が出来ない。
それが出来なければ済し崩し的に、今日半日見て来た普通で善良な少女という姿が偽りだと思えなくなってくる。
まだ感情論以外で善良だと判断できる証拠は何も見つかっていないのに。
本質的に一年前の悲劇と何も変わっていない状況の筈なのに。
……これは良くない。
「もっと厳格にしないと……厳格に。誰かがしっかりしないと駄目なの……」
そう言い聞かせないと、感情論に身を任せてしまいそうになる今の自分はあまりに良くない。
「とにかくユイの調子が戻ったらその時はちゃんと厳しくしないと…………いやいやだったら配慮なんかせずにもっと詰めないと駄目でしょ私……滅茶苦茶だ」
周囲の人間には一応それらしい説明はしてあるが、改めて振り返ると自分の行動は支離滅裂だ。
そうして、そんな情けない自分に溜息を吐いたその時だった。
「……?」
目の前。
何も無い空間に、何の前触れも無く迷彩色の拳銃が現れたのは。
「……ッ!?」
アンノウンが出現したのは。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます