ex 招かれざる客 下
そのアンノウンを視界に捉えた瞬間、まるで気が狂う程の激しい強迫観念に駆られるように、その銃を手に取らなければならないと思ってしまった。
だがゆっくりと体を動かし始めた所で、なんとか踏み止まる。
「……ッ!?」
こちら側の人間に寄生するタイプのアンノウンは、まず自身を手に取らせる為に近くの人間を吸い寄せる。
故にアンノウンを発見した場合、いかなる場合でも一般人は近付いてはならず、異界管理局への通報が義務付けられている。
まだ異界管理局に通報するという選択が取れる程度に正気を保っている一般人の精神がアンノウンに乗っ取られてしまわぬように。
まず人間の精神を乗っとってから動きだすタイプのアンノウンをそもそも動かしてしまわない為に。
ではそんなアンノウンに対し、ウィザードはどう対抗するのか。
(この部屋に宿泊していたのが私じゃなきゃ大変な事になってた……ッ! ウィザードなら、私なら……それは通用しない!)
ウィザードはそんなアンノウンの力から魔術で精神を守る。
それができるのだ。
一級ウィザードの赤坂なら尚の事。
(……よし、大丈夫)
間一髪、正気を維持する事はできた。
最悪の事態は回避できた。
……では後やるべき事は。
(とにかく他の誰かが来る前に、この銃のアンノウンを破壊する!)
そう判断し魔術を発動させ、周囲に光の矢を展開する。
そしてすぐさま標準を合わせた、その時だった。
「……ッ!?」
目の前のアンノウンの形態が変化した。
迷彩柄の拳銃だったアンノウンが次の瞬間には……赤髪セミロングの、ユイ程の年齢に見える少女に姿を変える。
そしてそのままこちらに向かって飛びかかってきた。
……だからどうしたという話だ。
アンノウンの速度は人間離れしていたが、対応できない速度ではない。
ほぼ確実に魔術で撃ち抜ける。
精々その程度の速度だ。
だから難しい事を考えず、ただ展開した光の矢を放てば良い。
何も考えなくてもいい。
ただそれだけ。
それだけの簡単な事だ。
だけど思考にノイズが走る。
外側からではなく、内側から溢れ出すように。
もしユイのように善良な人間なのだとしたら。
そのノイズが洗練された動きに一瞬の遅れを生じさせた。
そして次の瞬間、アンノウンの手が赤坂に触れ……彼女の手には迷彩色の拳銃が握られる。
「……」
赤坂伊月の意識は静かに消し飛んだ。
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