ex 変わらないもの

「それで伊月ちゃんはこれからどうする? 監査対象が居なくなっちゃったけど」


「今日のところは一旦ホテルに戻ります。さっきは人手が居る戦闘だから私も行きましたけど、本来私は部外者です。ただでさえ面倒な事が起きていてバタバタしてるのに、浮いた私なんかいたら邪魔ですよ」


「そんな事無いと思うけど」


「ありますよ。流石にその辺は弁えているつもりです」


 その代わり、と赤坂は言う。


「色々と分かった事が有ったら、私に話しても良い情報だったら教えてください。あと緊急の時は遠慮なく連絡を。北陸第一の敵みたいな感じで此処に来てますけど、手を貸せる所は貸しますよ」


「……ありがとね、色々と」


 ……色々と。

 自分が認めていない事も含めて、そう言われているような気がした。


(……それを本当の意味で受け止めるか、突っぱねるかはまだ保留。うん、保留だ)


 半ば自分に言い聞かせるように内心でそう言った後、言葉を返す。


「ええ。じゃあまた明日」


「うん、また明日……ってこんなやり取りするのも久しぶりだね。そうだ、伊月ちゃん帰る前に一回ご飯行こう。こっちは遊ぶところとかはあんまりないけどご飯美味しい所は東京に負けない位一杯あるんだ」


「良いですね。じゃあ美味しい所紹介してください。色々お邪魔させて貰ってるお返しも兼ねて奢りますよ」


「いや私が出すよ。伊月ちゃんはお客さんだし」


「珍し…………ようやくギャンブル止めて懐に余裕でもできました?」


「昨日3連単当たった……」


「……そうですか。相変わらず私生活の方は色々とアレですね」


「で、でも煙草やめたもん!」


「え、ほんとですか!?」


「ご飯物凄く美味しく感じられるようになってほんのちょっとだけど太ったぁ……」


「ほんと杏先輩らしいというかなんというか……」


「喫煙ダイエットしようかな……」


「止めろ馬鹿」


 苦笑いを浮かべながら思う。


(良くも悪くも変わってないなぁ杏先輩)


 本当に良くも悪くも。


 そんな様子にどこか安堵しながら、赤坂は予約していた宿に向かうのだった。

 今日ここに来てから観て聴いた情報と自分の感情を、少しづつ整理しながら。


 一年前に起きた杏の一件から、変わった思っていた自分があまり変わっていないという事実を自覚しながら。

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