12 突入

 踏み抜いた柚子の結界に弾き飛ばされ、瞬く間にアンノウンの上を取った鉄平は、ユイを構えながら下方のアンノウンの背を目視で捉える。


 ゼロ距離で対戦車ライフルをアンノウンに打ち込む篠原と、自分の周囲に出現させた光の矢を同じく近距離で打ち込む赤坂。

 そして。


「おらっ! さっさとぶっ壊れるっすよ! オラァッ!」


 何度も何度も右拳で執拗に殴り続ける柚子の姿が見えた。


「なんか一人だけ絵面が喧嘩でマウント取ったチンピラみてえなんだけど……」


『それっぽく立ち回ってる篠原さんと赤坂さんに挟まれると尚更凄いの……』


「あれ? 俺達ってどっち寄りになるんだこれ」


『どうじゃろうか……まあかっこよく決めるぞ鉄平』


「おう!」


 言いながら鉄平も降下を開始。

 そんな鉄平を迎撃するようにアンノウンの背からビームの様な物が放たれるが、それが放たれたと余裕を持って認識できるのであれば然程の脅威ではない。


 軽くユイを振り、足の裏に結界を出現させて足場にして躱す。

 それを攻撃が放たれる度に繰り返していく。

 当初ユイの結界は、剣を振るった正面にしか展開できなかった訳だが、二か月弱やれる事をやれるだけやった結果、ある程度の制限はあるもののこうした小技もできるようになった。


 そしてその小技を駆使して攻撃を躱しながら下降していく。


『練習した成果が出ているのじゃ!』


「散々付き合って貰ったからな!」


 そう言いながらアンノウンの背に着地。


「お待たせ!」


「お疲れっす。とりあえず周囲警戒しながら杉浦さんもドカドカやっちゃってください!」


「おうよ! ユイよろしく!」


『了解じゃ!』


「追撃入りまーす!」


 そう言って流れ込んできた力の使い方に従って、アンノウンの背目掛けて力を振るう。


 放ったのは非常にシンプルな一撃だ。

 斬撃を飛ばす訳でもない。相手を内側から破壊するような物でもない。

 ただ純粋に、通常の剣撃に更なる破壊力を付与する言わば強い通常攻撃。 


 それを二度、三度と。何度でも。自然と柚子と息を合わせるようにアンノウンの背に叩きつけていく。

 やがてヒビが入りそして。


「「せーの!」」


 何度目かの攻撃が合わさったその時だった。


「っしゃあ、やったっすよ!」


 アンノウンの背に直径三メートル程の大きな穴が空いたのは。


「そっち、うまく行ったか!?」


「ばっちり穴空きました!」


 周囲を警戒しながら柚子とは別に破壊を試みていた篠原の問いに鉄平がそう答えると、そこに赤坂が歩み寄って来て言う。


「私はアンタ達よりもしっかり周囲の警戒をしていたわ! もっと攻撃に集中してたら穴空けてたのは私だったんだから!」


「いや別に競ってねえんすけど……まあ篠原さんと伊月ちゃんがそっちに比重置いてたから破壊する方に結構集中向けられたんで。チームプレーっすよチームプレー。ありがとうす」


「……ま、まあアンタが繊細な攻撃をしてたのは分かったから。フォローに回るのが当然だった。別に礼なんて言われる筋合いはないわ」


『……どうやらワシらが分からんだけで繊細な事やってたみたいじゃぞ』


「柚子」


 赤坂に続いて鉄平も柚子に声を掛ける。


「なんすか?」


「なんかごめん」


「なんの謝罪っすか!?」


 チンピラとか言ってごめんなさいの謝罪である。


「……しかしあまりに隙だらけだ」


 そう言って近づいてきたのは篠原だ。


「着地までは抵抗されたが、結局下りてからは何の攻撃も無かったな……あっさり事が進み過ぎて逆に不安になる」


「ほんとですね……それで、どうします? コイツまだ普通に飛んでますけど」


「……当然、穴空いたんすから、脱出の事だけ頭に入れて内側からぶっ壊すのがセオリーじゃないっすかね」


「そういう事になるわね」


「んじゃ、さっさと終わらせるっすよ。とりあえず私先下りるんで大丈夫そうだったら合図するから下りてきて欲しいっす。とう!」


 そう言って柚子がアンノウンの中に入っていく。


「あ、ちょ、危なかったらお前がどうすんだよ!」


「まあ風間妹は姉の方を除けば北陸支部で一番の実力者だ。最悪何かあっても戻って来る事はできる……それに、悠長に調べている時間がある訳じゃないからな」


 篠原がそう言った所で、柚子の声が聞こえて来る。


「み、皆さん早く下りてくるっす! 急いで!」


 ひとまず無事なようだが一体何を見たのか……そんな鬼気迫る声で。

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