ex 違和感
「……しかし妙だね。そう思わない? マコっちゃん」
「ええ」
杉浦鉄平が柚子の結界をジャンプ台のように使って飛び立ったのを見送った後、上空のアンノウンに警戒しながら神崎は杏の言葉にそう言って頷く。
「流石に大人しすぎますね」
そう言った次の瞬間、上を取った篠原達に向けたアンノウンの攻撃が始まった。
アンノウンの背から放たれたであろうビームのような攻撃。
だがそれもさほど激しくなく、上を取った三人は結界で足場を作り容易に回避し、攻守が入れ替わる。
柚子は頭上に再び攻撃を弾く結界を張り、軌道修正して拳を握り急落下。
赤坂は上空で右手をアンノウンに向け、光の矢を。
そして篠原はその手に対戦車ライフルにほど近い兵装を顕現させ、自身の術式を刻み込ました弾丸を撃ち込んだ。
その攻撃を、アンノウンは一方的に浴びる。
『こちら篠原、上も相当硬いがおそらく地に面した側よりは柔い!』
そしてそれらの攻撃が地上からは見えない部位相手に有効だった事を告げる報告がインカムを通じて聞こえてくる。
……破壊時に落下してくる残骸の対処さえできれば決して厳しい戦いではない。
……現状その程度の相手でしかない。
Sランクのアンノウンがだ。
「……何が目的だ?」
そもそも、管理局がアンノウンの出現を確認してから迎撃に当たるまでの決して短くない時間の間、対象のアンノウンはただ上空を飛行しているだけだった。
直接的攻撃を仕掛けてくるのではなく、ただそれだけ。
四月上旬のジェノサイドボックスの時のように偶然出現ポイントにウィザードが居るというような不幸中の幸いがなければ基本後手に回る事が前提のアンノウンの迎撃において、今回はこちらが先手が取れている。
それを幸運と捉えるべきか、それとも……どこかきな臭いと捉えるべきか。
(何か……嫌な予感がするな)
例えばの話だ。
ユイやジェノサイドボックス、加えて各国の増加傾向にあるダンジョンの打ち漏らしを偶然ではないと仮定して。
上空を飛ぶアンノウンが……Sランクという表に出る出ないは別としてあまり送られてくる事が無い言わば上澄みのアンノウンが、狙ってダンジョンという迎撃システムを潜り抜けて来たのだとすれば。
……その一件無駄で生易しい動きの先に、最悪な展開が待っている可能性も否定できない。
……否定してはいけない。
そして神崎は耳元に手を触れて言う。
「通信室。こちら神崎。地対空の術式の有無はもう問いません。非番のウィザードを全員召集してください。あと北陸第二の方にいつでも動けるようにスタンバってもらうよう伝えてくくれると……ええ、念の為です。何事もなければ北陸第二の方には俺が頭下げに行きます」
そう伝達し、一呼吸置いた神崎に杏は言う。
「それでいいよ。その時は私も頭下げにいく……できればそうなれば良いね」
「恥かいて小言言われるのが一番良い決着ですよ」
願わくばそうなりますように。
そう考えながら、神崎は改めて上空に意識を向けた。
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