13 箱舟

 鬼気迫る声音の柚子に促されて鉄平達三人もアンノウンの中に降り立つ。

 当然何が起きてもおかしくないと、最大限の警戒心を纏って。


「柚子、一体どうした」


 言いながら着地しした鉄平に、ふざけた様子の一切ない真剣な声音で柚葉言う。


「……大ピンチっすよ。色んな意味で」


 柚子にそう言われながら周囲を見渡した。


「……ッ」


 アンノウンの内部は例えるならば貨物機のような感じだった。

 そう例えるに相応しく、セオリーを無視した積荷が乗っている。


「……冗談でしょ?」


「できれば冗談であって欲しい所だが」


 同じく突入してきた赤坂と篠原も、その光景を見てそう呟く。

 そして目の前の状況の意味が分からなくて、鉄平は柚子に問いかける。


「なあ柚子」


「なんすか?」


「アンノウンって……基本一度に一体出現がセオリーだよな?」


「はい。だから色んな意味で大ピンチなんすよ」


 そんな会話をする鉄平達の視界の先には二メートル強程で二足歩行のロボットのような何かが……目視で確認できる限り二、三十体程の恐らくアンノウンがそこに居た。


 それが本当にアンノウンなのだとすれば、異常事態だ。


 アンノウンの出現は一度のタイミングで基本的に一体に限られる。

 何故ならそもそもこちらの世界にやって来るアンノウンをダンジョンが捌いた上で、それでも打ち漏らしたアンノウンが表に現れるからだ。

 故に極々稀に二体出てくる事がイレギュラー中のイレギュラーで。


 四級の鉄平でもこれがアンノウンの出現というイレギュラーの中でも更に異常に分類される事である事が理解できる。


 と、その時インカムに管理局の通信室からの音声が入る。


『各員に通達! アンノウン内部に多数のアンノウンの反応を検知! 数40! どれもAランク相当です!』


「「「「……ッ!?」」」」


 思わず息を飲んだ。


 Aランクのアンノウンは当然ユイやジェノサイドボックスといった、フルパワーで稼働すれば一国が滅びかねない程の脅威ではない。

 だがそれでもアンノウンの中では比較的上澄みである事は間違いなく、平均して一対一で相対した場合準一級で五分といった、それだけの脅威だ。

 それが今、目の前に40体近く居る事が分かった。

 ……今勝てる勝てない以前にこういう事が起きる事自体が。起こされる事自体が最悪だ。


「……神崎の仮説通りか」


 篠原は対戦車ライフルを消滅させ、代わりに懐から拳銃を二丁取り出しながら言う。


「……どうやら向うは一体を確実に通す事ができるようになったみたいだ」


「一体って40っすよ40!?」


「この一体の中に詰め込んできたんだ。船も何人乗客が乗っていようと一隻だろう」


「……そんな滅茶苦茶通るんですか!?」


「通ってんでしょ! クソ!」


 そう言って赤坂は自身の周囲に光の矢を展開しながら言う。


「アンタ四級でしょ。逃げるなら今の内よ」


「いやいや、此処で皆置いて逃げらんねえでしょ! ただでさえこっち数少ねえのに!」


『そうじゃそうじゃ!』


「ユイもそう言ってる! それにッ!」


 もう、自分達の身の安全がどうとかは言ってられない。


「なんでコイツらが外出ず大人しくしてたのかは分かんねえけど、放っときゃ外に出る! いくらなんでもそれはマズい!」


「同感っす。そんな訳でこの四人……いや、五人でやるっすか」


「ああ。幸い今此処に居るのは北陸支部が用意できる最高戦力だ」


 そう答えて篠原は二丁拳銃を構える。


「準備は良いか。始めるぞ……これより内部のアンノウンの掃討作戦を開始する!」


 そして銃声が鳴り響き、第二ラウンドが開幕する。

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