3 彼と彼女の日常についての調査 上

 休日。日曜の昼食時。


「風間、何でここに? お前今日非番じゃねえだろ」


「抜き打ちの調査的なアレっす!」


「なんだそりゃ」


 木造アパート二階の杉浦家にチャイムを鳴らして元気よく訪ねてきたのは、パーカーにミニスカートという私服を身に纏った風間柚子。

 彼女は小さく笑みを浮かべて言う。


「ほら、アレから何事も無く平穏な感じになってるっすけど、一応杉浦さんは強力なアンノウンを住まわせている感じなんで。私達からしたら杉浦さんじゃない第三者の目で色々確認して報告上げないと駄目なんすよ」


「まあそういうのも必要になるか……」


「はいっす! で、まあ素行とかは杉浦さんがユイちゃんと管理局に来てくれているから分かるっすけど、後はちゃんとしたプライベートを送れているかっすね」


「危険な事が無さそうかって事か?」


「それもそうっすけど、ほら後はシンプルにアンノウン関係なく杉浦さんは小中学生位の子供家に住まわせてるんすから。ちゃんと保護者やれてるかどうか的な。そういう一般的な事もチェックっす」


「それでお前が来たわけだ……そんな事女子高生にチェックされんの俺」


「そうっすね!」


「いやこれ別にお前の事貶してる訳じゃ無いんだけどさ……人選ミスってね? ユイの危険性云々の話はともかく生活云々の話になるとしっかり大人って感じの人の方が良いんじゃね?」


「あはは、それは私もそう思うっす。というかそもそもそういう部署が管理局には無いわけっすから、そんな警察とか児童相談所の職員みたいな事やれる知識もノウハウも無いっすからね……ところで警察とか児相ってこういう訪問とかってするんでしたっけ?」


「いや知らん」


「私も全然っすね!」


 そう言って笑った後、柚は言う。


「まあでもアレっす。手が空いてるからって理由だけで何の知識も無い私が来る位には形だけの調査っす。本部にやったって言える実績があればそれで良い的な」


「適当だなオイ」


「適当っすよ」


 柚子は言う。


「雑にやれない位に難がありそうなら、そもそも最初から違った未来があったと思うんすよ。先に信頼を勝ち取ったから今があるっす。そりゃ私生活どんな感じなんだろって心配は若干あるっすけど、それこそちゃんとご飯食べてる? 位の事以外はまあ大丈夫だろうって思ってるんすよ皆」


「そっか……まあ入れよ」


 組織としてそれが良いのかどうかと言われれば、それはきっとあまり良くない。

 きっとあまり良くない事の積み重ねで今に至っている。


(……ほんとしっかりしないとな)


 改めて思う。

 そういう選択や考えをしてくれた人達が不利益を被る事が無い様に。

 最低限、しっかりしないと駄目だ。


「お邪魔しまーす」


 柚子を部屋に招き入れる。

 当然見られて困る様な事はこの先に無い。

 ……まあそういう本だとか、PCのデータとかは普通にあるが、その辺はユイと生活を共にする以上管理体制を徹底してある。問題ない。

 つまりなんの問題も無い訳だ


「ん? その声は柚子か?」


 そして玄関先での話を聞いてか、ユイが玄関の方に足を運んで来る。

 ユイの服装はTシャツにショートパンツといったラフな格好。

 先日柚子にユイの衣類などを買い揃えて貰った時に購入した一点だ。


「こんにちはーユイちゃん!」


「こんにちはじゃ。というかどうしたのじゃ急に」


「まあ色々あってね」


「ほう。まあ何かよく分からんがゆっくりしていくのじゃ」


「うん、まあそれなりにね」


 そう言う柚子に鉄平は問いかける。


「そういや風間。お前昼食った?」


「ん? まだっすけど」


「丁度今から昼飯作ろうと思ってたんだけど、良かったらお前も食ってくか? 大した物出せねえけど」


「いいんすか?」


「おうよ。ユイの服とか選んできてもらったり世話になったしな。昼飯食ってないお前の前で俺らだけってのもあんまり感じ良くねえだろ」


「じゃあお言葉に甘えるっす。別にそういう趣旨で来てねえっすけど、ちゃんと美味しい物を食べさせてるかチェックっすね」


「だからそんな審査されるような大層な物作れねえって。夜ならともかく昼食だし簡単な奴だぞ」


「ちなみに何作るんすか」


「ささっと炒飯とスープでも作ろうかと」


「ほう」


「簡素だろ。チェックも何も炒飯なんてマズく作る方が難しいんだから、難しい事考えんな」


「いやいや、杉浦さん炒飯舐めてないっすか」


「あ?」


「マズく作る方が難しいって簡単な事言っちゃって。言っとくけど私厳しいっすよ。調子乗った事言いましたって謝るなら今の内っす」


「謝らねえよ別に。マズかったらお代はいらねえよ」


「え、お金取るんすか?」


「いやその場のノリで言っただけで、当然元から要らねよ」


「そうっすよねーははは。さて、じゃあ気を取り直して」


 コホンと可愛くわざとらしい咳をしてから柚は言う。


「それじゃあ美味しい炒飯を作って貰うっすよ!」


「できらぁ!」


「鉄平も柚子も何か知らんが声大きくないかの。近所迷惑じゃ」


「「あ、ごめん」」


 とまあ普通に炒飯を作ることになった。

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