1/8 『岸部露伴は動かない』に見る身勝手な人間
遅ればせながら、『岸部露伴は動かない』の実写ドラマを見ました。NHKの制作による、高橋一生さんが演じる岸部露伴のドラマも、早くも3年目。最新作の「ホットサマー・マーサ」と原作エピソードをドラマ用にアレンジした「ジャンケン小僧」、どちらもとても面白くて、作品世界にどっぷりつかりました。
このドラマを見る前に、映画化の話を聞いてしまったんですよね。先にドラマを見て、「あれは何かの匂わせか?」と思いたかったです。もったいなく感じます。
さて、私は『岸部露伴は動かない』がすごく好きです。ジョジョの番外編だから、という理由を差し引いても大好きです。その理由は一つは、登場人物が非常に人間臭いからというのがあります。
この作品は、「ヘヴンズ・ドアー」という他人の記憶や心を見たり、命令を書き込めたりできるスタンド(ドラマ内ではギフト)を持っている人気漫画家の岸部露伴が、身の回りの奇妙な出来事に巻き込まれてしまうというのが本筋です。だから、ジョジョの漫画のように明確な敵キャラはいないのですが、どこかにいそうなヤバい人に、露伴は遭遇してしまいます。
一番わかりやすくてヤバいのは、「ザ・ラン」というエピソードの橋本陽馬というキャラクターです。彼はモデルで、事務所社長から「体を作れ」と言われたことをきっかけに、ジム通いや走り込みにのめり込み、とうとう一線を越えてしまいます。
体を鍛えるのに夢中になる、というのはあるあるのかもしれませんが、彼女を無理やり協力させる、自分のトレーニングを邪魔する者にキレるなどと、どんどんおかしくなっていきます。その身勝手さの先に、犯罪を手に染めてしまうのですが、そのリアリティが良いんですよね。
ニュース番組に出てきそうな人物という造詣が、すごく生々しいんです。そういう人の思考も、その人なりにそうなってしまったという理屈付けがちゃんとしていて、納得できる上に、そんな人に遭遇してしまったという恐怖も、身に迫ってきます。よって、我がことのように恐ろしくなるのです。
「ホットサマー・マーサ」と「ジャンケン小僧」のエピソードも、ヤバすぎるファンに遭遇するというお話でしたね。個人的に、『ミザリー』のエッセンスを感じました。
で、それらに対峙してしまう露伴はどんな人なのかというと、彼も結構身勝手なんですよね……。自業自得でピンチに陥ってしまったり、子供を負かせて高笑いしたりしますし。そもそも、躊躇なく能力を使って他人の個人情報を見ていますからね。
一応、自分が本当にピンチにならないと他人は傷付けないというラインは守っていますし、他人の個人情報を見るのも、いろんな経験を読み取って、より面白い漫画を描くためという信念が故の行動ですからね。こういう、ヒーローにもヒールにも、転べそうな危うさが、岸部露伴というキャラクターの魅力だと思います。
現実にいそうなキャラクターと言われると、この動かないシリーズや、ジョジョやその他の短編など、荒木先生が描くキャラクターが思いつきます。人間らしい弱さや卑怯さをしっかり描くのが、ちゃんと魅力になったり、共感性を呼んだりするのだと思います。
また、橋本陽馬や「ホットサマー・マーサ」のイブのように、現代的な価値観の中で、いそうなキャラクターの造形も素晴らしいので、世間に対するアンテナが高いんだろうなぁと思いますね。周りのことをネタに出来るほど観察眼、漫画家以外の創作者にとっても、重要な能力なので、見習いたいです。
えー、それとは関係ありませんが、今回の宣伝です。
「貴方の声は朝日のように」をカクヨムコンの短編部門にエントリーしました。
→https://kakuyomu.jp/works/16816927861431862417
「私」は、中学生の頃、たまたまテレビで見たヴィジュアル系バンドのエル・ドルフィンに夢中になる。しかし、そのボーカル・レイは、三十年ほど前に亡くなり、バンドも解散していた。推し活をしながらも、物足りなさを感じる「私」は、ある夢を抱くようになる。
KAC2022の推し活がテーマの時に書いた小説です。小説と言いましても、内容は「私」のブログのようなものになっています。日曜日には新作を、とは思っていましたが、なんやかんやで既存のエントリーになってしまいました。
私は、歌手の倉橋ヨエコさんを、引退してから知って、ファンになってしまいました。大好きだけど、もう引退してしまっているが故のもどかしさを、反映したつもりです。
あと、この話はお墓参りする話なんですが、何気に拙作では、お墓参りの話が結構多いんですよね。その話も、別の機会にやりたいです。
はい。今回はここまでにします。
また次回で。
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