12/31➁ 高瀬隼子『おいしいごはんが食べられますように』


 2022年の読み納めは、高瀬隼子さんの『おいしいごはんが食べられますように』でした。駆け足になりましたが、今年読もうと思った作品は、こちらにて全て読破出来ました。

 パッケージデザインを行う会社の営業支店にて働く、年代の近い三人。か弱く、みんなに守ってもらいたいと思わせる料理上手な女性の芦川さん、食事に対する興味が全くない男性の二谷さん、芦川さんの後輩だけど彼女より仕事ができる女性の押尾さんによる、奇妙な三角関係を、食事のシーンを中心に描いた短編。2022年の芥川賞受賞作です。


 タイトルに関するイメージは、大分最初の方で払拭されていました。『食べて、祈って、恋をして』みたいな、食事=生きることみたいな話だと思ったのですが、むしろ真逆なんです。おいしいものの描写がたくさんあるのですが、それだけではないのが面白いです。

 その理由は、二谷さんの存在でしょう。彼は、食事に係る時間を、はっきり無駄だと断じていて、カップ麺だけで、栄養が足りなかったらサプリを飲めればいいと考えているタイプです。他の二人の女性とは正反対で、そういう考えが嫌われると分かっているからこそ、その事を黙っています。


 そんな二谷さんから見る食事のシーンが、悪い意味で圧巻なんですよね。私は、食べることは好きな方なんですが、これを読むとキライになってしまいそうなくらい、食事に関する「気持ち悪さ」「違和感」を描き切っています。

 とはいえ、料理の描写は魅力的ですね。グルメと別のものを掛け合わせた作品がはやるのも、納得できます。ただ、それだけに収まらない点が、きっとグルメものに対するアンチテーゼなんでしょう。


 また、芦川さんは、「配慮される」側として描かれています。彼女は、あまり仕事ができなくて、あらゆる理由から早退している一方で、周りから愛されている。その残った仕事のお鉢が回ってくる押尾さんは、仕方ないと思いつつも、もやもやしたものを抱えています。

 主要人物三人の中で、芦川さんだけがその心情を描かれていません。ただ、彼女も彼女で、色々諦めてきた人生だろうなぁというのを、言動で察することが出来ます。赤ん坊が愛されることで守ってもらえるように、芦川さんは、自覚あるかどうかはともかく、周りにそうしてもらえるようにして、自分の位置を守っているのでしょうが、その為にたくさん傷ついたこともあったのだろうとも。


 で、最初の方で、恋愛的な三角関係になるのかと思ったんですが、それも早くも変化します。職場での人間関係って考えると、こうなってしまうのかなぁとも。

 その形が、すごくざわざわさせられるのですね。この三人だけではなく、周りも含めて、自分と同じことを相手が思っているとか、優しさによって相手の心をじわじわ削っている所とか。人って、自分の思考と経験から離れられないんだなぁと感じてしまいます。


 さて、ここからは、本作の感想とは違うのですが、こちらを電子書籍で家のリビングで読んでいると、弟から、「それ、読んだよ」と言われました。学生の頃までの弟は、あまり本を読まないタイプだったので、いつの間にか割ったのかと、非常にびっくりしました。

 話を聞いてみると、今年は朝井リョウさんの『正欲』や窪美澄さんの『夜に星を放つ』、クリスティーの『そして誰もいなくなった』やサン=テグジュペリの『星の王子様』も呼んだというので、ますますびっくりしましたね。そんなに小説が好きになったら言ってよと。


 弟によると、『そして誰もいなくなった』は面白かったそうですね。私は未読なので、ぜひ読みたいです。

 私の方も、弟に「帰省中に暇になったら読んでみて」と言って、向田邦子の『思い出トランプ』を勧めておきました。気に入ってくれると嬉しいです。




 では、今回はこの辺で。また次回ですね。


























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