12/17 恩田陸『ユージニア』読了


 今月の初めから、ちょくちょく読んでいた恩田陸さんの『ユージニア』を本日読み終えました。こちらは、2005年に発行されて、第59回日本推理作家協会賞長編及び連作短編集部門を受賞したミステリー小説です。ちなみに、私は文庫版を読みました。

 ストーリーは、古都で起きた医者一家毒殺事件の数十年後、唯一生き残った一家の娘、紙一重で難を逃れた近所の小学生少女、最大の容疑者だった男、その三人を中心に、誰がどうして事件を起こしたのかを追っていくという内容です。章の殆どが、それぞれの登場人物がこちらに、事件についてとその取材内容を語っているという内容で、第三者目線があまり出て来ないのが特徴的です。


 一つの事件を、全く異なる立場の人たちが語るので、事件の様相がくるくると変わっていきます。怪しい人物は確かに立ち上ってくるのですが、それすらもぼやかしていく……主観の恐ろしさに震えてしまいます。

 青春の話のようで、男女の恋物語のようで、女性同士の奇妙な友情も、サスペンスの追うもの追われるものの緊張感と、あらゆる物語の要素を取り入れています。そして、最後の最後で○○の物語だった……ということが判明して、また空恐ろしくなりました。


 第一章で語られているのは、舞台となる古都の地形や天候の話です。作中でずっと場所名は伏せられているのですが、そこがどこなのかは、実際にある観光地が実目で出てくるのは分かります。

 作者の恩田さんは、この話を書くにあたり、そこへ足しげく通ったので、文章に都市の雰囲気と空気が封じ込められています。また、事件が起きた時代の匂いも、嗅ぎ取れる文章で、そこにこの奇妙な物語にのめり込ませる要素なのでしょう。


 他にも、偶像化されたしまった人物は、『六番目の小夜子』を思い出させますし、様々な偶然が事件を引き起こしたのは『ドミノ』を、登場人物がこちらに語り掛けてくるという構成は『Q&A』(これは未読ですが)を、ある人物の話では、将来書くことになる『蜜蜂と遠雷』に繋がるテーマを見受けられました。

 私は、恩田さんの作品を全部網羅しているわけではないのですが、こんなに発見がありました。一定の作者を追っていると、「あ、こことあの作品が繋がっているな」と思える部分が見つかります。読書の醍醐味の一つと言えるでしょう。


 あと、この本の紹介分の一つに「藪の中」みたいなミステリーという表現がされていましたが、個人的には、「地獄変」も連想しました。とある事件について語るのは、その周辺の人々だけで、本当の中心部にいた人物は黙している、という点が共通しているようです。また、主観の強い語りだという点も。

 何度も言っていますが、このお話は、「主観の語り」がテーマとなっています。きっと、誰もが真実を語っているのでしょう。しかしそれは、自分の目から見た真実であるため、他の人と矛盾が起きるのは当然でもあります。


 ……だからこそ、三人称語りのあの章の、誤字ではなさそうな矛盾が気になるんですよねぇ。考察が捗りそうな一冊なので、今度他の人の見解も調べてみたいです。

 ミステリー小説だと、事件の真相は判明するというのが当たり前なのですが、それすら逸脱しています。本当のことは誰にも分からず、もしかしたら……というヒントが与えられているだけ。消化不良な印象もあるかもしれませんが、とても私好みのお話でした。




 話は変わりますが、本日の宣伝です。


 「魚を飼う」

 →https://kakuyomu.jp/works/16817330650830443684


 川で釣った魚を、会社の先輩から譲られた「私」。種類も雌雄も知らないその「魚」を飼う彼女の観察記。

 冒頭の一文が思いついてから、書き上げた話です。『日常キリトリ線』からの抜粋でした。


 ありえないことに出くわしても、存外平常心な人を書くのが好きです。何と言うか、誰も見ていない時にびっくりするのは、わざとらしい気がするというのもあります。

 ジャンルはファンタジーですが、どちらかというと、シュールコントみたいな話です。それも、ツッコミ不在系のコントですね。書いている側は楽しかったです。




 はい。今回はこの辺りで。お疲れさまでした。











































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