第16話 重大告知配信の反省会
告知配信が終わり、性別不詳組の四人で反省会を称してそのまま会議通話することになった。
配信は想像以上に人が来て大盛り上がり。告知内容も『重大告知』にそぐわぬ発表ができて、一部を除けば文句ない配信ができただろう。
『みんな喜んでくれてましたねぇー。
とミィさんが配信中に出していたイケボとはすっかり変わったギャル声で言う。
『そういえばですよっ! 先輩方ひどいじゃないですか!』
「え、どうしたのミィさん?」
『この前、三人でコラボ配信してたじゃないですか! それもアマネ先輩のお家で!! なんで令も呼んでくれてないんですかっ!?』
「ああー。そういえば……」
ここ数日でいろいろあったけれど、ミィさんのことはほとんど忘れていた。
『そういえばじゃないですよっ、令のことはのけ者ですかっ!? ひどいケイ先輩、あんなに愛し合ったなかなのに……っ!!』
「また変なこと言わないでって……今日の配信でもまだそういうコメントあったし」
そう、一部の懸念点はコメント欄にはまだ――。
『ケイちゃんが女なのは確定で、他のメンバーって性別どうなの?』
『全員女だぞ。性別不詳組は百合団体だから』
『荒々しい男達に囲まれるケイちゃんも見たいです。誰か薄い本描いてください』
などと告知内容と全く関係のないものがあった。
やはりアマネさんに訂正してもらっただけでは、この流れは止められないらしい。俺の力でどうにかしたいが、この調子だとミィさんからまた火種が投下されかねない。
ミィさんにも訂正してもらって、今後は問題になる発言を控えてもらう約束をするべきだろうか。
「あのさ、ミィさんにお願いがあって――」
『あっ、あの、アマネっち、あのメッセージのことなんだけど――」
俺とトモの言葉が重なってしまう。
ごめん、と互いに謝って、俺はトモに先を譲った。
『ここで話していいのかわからないんだけど、アマネっちのメッセージのこと……私ちゃんと知りたい』
「あ」
『……ああ』
今度は俺とアマネさんが同時にはっとする。
トモには途中経過からその後を教えていなかった。
そもそも俺の方は通話を切られてから、メッセージもろくに返って来ていなかったので話すこともできなかったのだけれど。
『トモ、騒がしてごめん。あの話は忘れていいわ』
『それって……』
『配信も漫画もしばらくは続けるつもり。トモが手伝ってくれたのもすごく力になったから感謝してる』
『ほ、本当っ!? よかったぁー』
目に見えて声色を変えて、トモが喜ぶ。
『待ってください!! また令をのけ者にして知らない話始めてませんっ!? え、配信続けるってどういうことです? それに漫画ってなんですかっ!?』
慌てふためくギャルに、アマネさんが手短に説明した。
それに加えてアマネさんは、グループで正式に活動することが決まっていたのに、ミィさんに話していなかったことを謝った。相変わらず淡々と話していたが、最後には今後みんなで活動することを楽しみにしていると言って締めくくった。
『ほへーって、本当に令の知らないところですっごいいろいろ起きてたんですね……。解決したことについては令も何も言うつもりはありません。ただ――っ!!』
意識しているのか無意識なのかわからないが、徐々にイケボよりに声を変えていくミィさんは、一度大きく言葉をためた。
『漫画読ませてくださいーっ! 令、漫画とかアニメとか超好きですーっ。えーもう、こんな身近にプロの漫画家さんがいるなんてすごい上がるんですけどっ。友達に自慢しちゃいますよ』
「……なにかと思えば。でも俺もアマネさんの漫画読んでみたい。結局まだ見せてもらってなかったし」
『私も……だって、ケイちゃんと私が……その』
三人からの要望に、珍しくアマネさんは
『その……悪いんだけど、わたしが描いている漫画、成人向けなの。アダルトコミック』
「ええええっ!? せ、成人向けって」
アマネさんはああ見えて大学生だ。つまり見えないけれど十八歳以上。成人なのだから、成人向け漫画を描いていてもなにもおかしくはないし、咎めることでもないのだが。
『こ、ばばばっ、ま、待ってよ、それじゃあ私とケイがモデルのキャラがその、え、ええ、エッチなことをっ!?』
通話中は比較的落ち着いているトモの声が心電図みたいにガタガタと震え始めた。そりゃそうか。自分が成人向け漫画――つまりエッチな漫画に出てくるキャラのモデルにされたとなったのなら、平静でいられるはずがない。
下手したら一生トラウマになりかねない。アマネさん、なんてことをしたんだ。だが一つだけ朗報がある。
「……トモ、安心してくれ。あのあと撮り直して、俺とアマネさんがモデルになっているから、トモは多分無事なはずだ」
『え、え? そ、それって……ケイとアマネっちがモデルって……え? やっぱり抱いたってエッチな漫画描くために本当に……』
「と、トモ? おーい、だからトモは安心して――」
『ケイのエッチっ!! 鼻の下どころか……実際にっ最低っ!! ド変態っ!!』
そのままトモが怒って通話を切ってしまい、その日の性別不詳組の反省会は混沌とした空気のまま解散することになった。
アマネさんからは『説明もなくアダルトコミックのモデルにしたことは悪かった。ケイの言うとおりトモはモデルとして使わなくなったんだけど、あの子にも悪いことをした』と謝られた。
正直複雑な気持ちではあったものの、一度やめると言っていたところまたやる気を出したことが嬉しく、「俺は気にしないんでトモにだけ誤解を解いておいてください」と頼んで置いた。
『そうね。使わなかったことを謝ることになるかも知れないけど』
と少し不思議な言い回しを残してアマネさんも通話を切った。
『え、エッチな……エッチな漫画……』
最後に残ったのは俺とミィさんだ。ミィさんはなにやらぶつぶつとつぶやいているが、彼女は俺より年下らしく、それを考えると避けるべき話題だったのではと不安になる。
というかいくつなんだ? 詮索するつもりはないけど、ミィさんは初対面のオフ会からずっと俺のことを先輩って呼んでいる。実際に年下かどうかはっきりはしていないが、俺より下となると高一?
――まさか中学生? いや、ないな。
俺は、実際のミィさんの姿を思い出す。スラリと背が高く、スタイルがよくて、大きな声では言えないけれどオフ会メンバーの中で一番大人びて見えたのがミィさんだった。
「ミィさん、それよりお願いが――」
歳の話は考えても仕方ないので、俺はさっき後回しにしたお願いをもう一度しようとしたのだが。
『そうです、ケイ先輩! 令、実は二人きりで先輩と話したかったんですよ』
「え? いや、えっと俺も話したいことはあるんだけど」
ハキハキとしたミィさんの声に、俺のお願いはまたもかき消されてしまった。急がないから後でもいいのだけれど。
『実はその、ちょっとばかしお願いがありまして』
「お願い? ……えっといいんだけど」
何か嫌な予感がする。でも聞く前から断るのもおかしなものだ。
『ケイ先輩に男装してもらいたくて』
「……え? いや、俺、男だよ? 男装って?」
男である俺に対して、男装してほしいという意味のわからないお願い。
しかし聞けば、想像以上にこれがまたろくでもないお願いであることが明らかになった。
――男の俺に男装なんてさせるなっ!! 強いて言うなら普段から常に男装だよっ!!
という心の叫びもどこかかすむほどに。
―――――――――――――――
(作者)
最後まで読んでいただきありがとうございます。
次話がアマネ視点の話、その次から新章です。
レビューでの評価や、感想を伝えていただけますと大変嬉しいです!
創作の励みと参考にさせていただきます。
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