12月27日

- -  1978年12月27日(水)


 昨日の分にとんでもないことを書き残していきやがったな、悪魔め。僕の手元にこんなに乱れた不完全な文章を置いて行った罪は重いぞ。幻聴が止まない。あまりにも厭な文章だからページを破り取ろうと数度試みたが、ページの端に手をかけた瞬間にあの声が耳元で喚き立ててしょうがないから諦めた(頭が割れるかと思うほどの騒音であったのだ)。老若男女の複合の声、地獄の音楽。ゲヘナから這い上がってきた死者の叫喚のようだ。そんなに記録の破棄が嫌か。何故だ? 僕が一体何をした?

 僕が何をしたと言うんだ。どうしてあの悪魔が僕でなければならないんだ。

 僕が何をしたんだ? ただ最善を求めただけじゃないか。

 弱っていく父を支えようとして。信教は憎くとも、家を家としてなるべく僕なりに守ろうとして。全てを守り切ることはとても不可能だと悟ってからは、破壊的な手段にも手を出したが、それを誤りだと裁ける者などどこにも居ないだろう。僕は、そうするしかなかったからそうしたのだ。大学のことだって僕は僕として振る舞っているだけだ。僕は今まで罪と呼べるようなことは一つも犯していないはずなのに。


 あれ、待てよ?

 ちがう

 そもそもこの世の万象に意味など無いのではなかったっけ


 あれ? そうだ、意味など無い。僕を含めた誰が何をしても、日々は無為なのだった。何故それを忘れていたのだろう。意味が無いから、最初からみんな虚無以上のものにはなり得ないのだから、僕はいつでもあらゆる事物を「受け容れよう」と思って生きてきたのではなかったか。

 そう、だよな。七歳の夜に赤を浴びてみんな無意味だと解ったから、何もかもただ受け容れて何も望まず生きていこうと決めて、事実その通りにしてきたはずなのに。


 最善を求めて足掻こうなんて、僕はいつの間に考えるようになった?

 無意味だと解っていたはずなのに、どうして僕はこんなにも、まだ自分の生に意味があって欲しい、なんて


 悪魔、さっきまでうるさかったくせに急に黙るなよ。

 やめてくれよ、僕がおまえだと証明されてしまう気がするじゃないか。

 黙るなよ


 喋っていいから

 僕がどうして泣いているのか教えてくれ

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