第19話

 降ってきた塊は、異様な見た目だった。何人もの腕や手や頭、胴体、足が絡まって、それだけでなく、手から足が、頭から頭が、口から足が、胴体の断面から無数の手足が、まるでつぎはぎされたように生えていた。生理的嫌悪で、胃液が込み上げて来て、慌てて、胃に押し戻さなければならなかった。

「突っ立ってないで、そっち抱えて。早く逃げないとっ」

 真桜まうは洋子を、俺は深玖しんくを抱えて、走り出す。さっき攻撃した時みたいにとんでもない速さで走っているはずなのに、新島らしき人体の塊は、転がりながら追ってきて、だんだんと後ろから距離をつめてきている。

「このままじゃ、ジリ貧だ、真桜まう。なんとかならないか?」

「無理だ。今の僕たちじゃ、逃げることしかいい手立てはないね。でも、さすがにもうそ――」

「ダメだよ。これで終わりっ」

 振り返ると、いつの間にか、手から腕が何度も生えるようにして、俺のすぐ後ろまで塊から手が伸びてきていて、手首に生えた新島の頭がニヤっと笑う。

 反応する間もなく首をつかまれて、後ろに引き寄せられる。

入丙いるへいー!」

 踵を返して、叫びながら真桜まうが飛んでくるのが見えるけど、塊に近づく方が速い。視界が暗くなって、体に力が入らず、今度こそ、終わりかという思いが頭の片隅をよぎった。

「よく頑張ったな少年。お姉さんが来たからにはもう大丈夫だ」

 唐突に首を絞められる感覚が消え、誰かに抱えられているのを感じる。ごほごほっと、むせて、息を何度か吸うとようやく視界が元に戻って、大人の女性がこちらを覗き込んでいるのが見えた。

「はあはあ、良かった、入丙いるへい……。それに、しても……、来るの遅いよ、特殊科……」

「悪かった。でも、今回はかなり特殊なケースだからな。それより、この子、任せるよ」

 肩で息をする真桜まうの足元に、俺を置いて、その女性は人体の塊に向かって走る。

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