第17話
頭を下にして、地上に向かって俺は落ちていく。なぜだか、少しゆっくりと、景色が、流れていく。
俺が死ねば、少なくとも
あの時、生き残った俺は、ずっと、幸せに生きようと生きてきた。それは、いまでも変わらない。
だから、進んで、死にたいわけじゃない。でも、そのせいで
地面がかなり近くに見える。体にかかる衝撃とそれにともなう死を覚悟して、俺は目を閉じた。
「こ、ん、のぉ、お、お、バカがぁあ」
大声が耳に刺さる。体が抱き寄せられるのを感じた直後、地面にぶつかったのか、衝撃が骨を走った。
目を開けると、
その顔を見て、思わず俺は目をそらしてしまった。
地面はひび割れて少し陥没していたけど、不思議と身体は全く痛くなかった。
隣で、はあとため息をつく声が聞こえる。恐る恐る
「人は理由なくこの世に生を受ける……」
地面に手をついて、天を仰いで、
「でも、神は違うんだ。どんな神でも、邪神だろうが、人間と契約している神だろうが、この世界に降りてきた理由がある。それが人にとって良いものかどうかはまた別の話だけどね」
そういえば、新島も、知りたいことがあると言っていたのを思い出す。
「僕は、君に、幸せでいてほしかった」
俺のそばに寄って来て、
「死んでしまったら、幸せになることは、叶わない。だから、
俺の手の上に、雫がぽつぽつと落ちてくる。
手で顔をぬぐうと、
「それに、忘れてるようだけど、君が死んだら、僕も死ぬんだ。だから、僕に幸せでいて欲しいなら、何がなんでも、生きてくれ」
手を握り返して、ごめんと、一言、俺は言った。
「見つけたー」
「入丙くーん」
「そんなところに」
「いたんだねー」
はっと、顔を上げて、俺と
「しまった」
そう言って
あっという間に、人間で、俺たちの周りは囲まれてしまった。
「すぐに」
「そっちに」
「行くから」
「待っててねー」
輪唱のように周りの人間が、俺たちに向かって、声を発してくる。でも、その顔たちは、どんな感情も読み取れないうつろな顔だった。
「くそっ。仕方がない。
そう言って、
「説明は後で。とにかく、『赦す』って言って」
真剣な目で、
「赦す」
血が熱く波打った。でも、身体は急速に冷たくなる。
横を見るといつの間にか、
「よしっ、逃げよう」
周囲の人間を、あらかた、ぶっ倒して戻ってきた
逃げていたときのように、また俺を、お姫様抱っこで、
「残念」
飛び上がって、今いたところから離れる前に、おびただしい人間の手が飛んできて、無理やり俺をさらって、
「
人間の手の嵐の中で、遠ざかっていく
「さて、お邪魔虫も消えたことだし……って
手の壁が消えたのを見て、新島が話し出したのを無視して、逃げようと新島に背を向ける。前とは違うのだ。今は身体が動く。
「
反射的に振り向いてしまう。でも、確かに2人は、新島に首根っこを掴まれ、
「
そう言って、新島は、俺に向かって、意地悪そうな笑顔をして見せた。
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