第12話

「へぇ、これが入丙いるへいくんの作品か~。上手だねー。筆で書くのって難しくないの?」

「やっぱり、馴れかな。ボールだって何回も投げるうちに、投げるの上手になるでしょ。あれと一緒」

 渡り廊下に展示した書道部の作品を、俺と新島、2人で見て回っていた。ちょうど、目の前にある俺の作品は、とある歌の一節を書いたものだった。

 あの後、クラスの模擬店のところに一直線で向かったが、新島も深玖しんくも洋子も、その姿はなく、スマホで連絡を取ろうとして、新島からここで待ってると、メッセージが来ていることに気がついたのだった。

「入丙くんの作品も見れたことだし、なんか食べに行きましょうか」

 新島に連れられて、模擬店をはしごして回った。休憩スペースの空き教室に着いた時には、かき氷、唐揚げ、ホットドッグ、フランクフルト、クレープ、とか、あえて自分のクラスのフライドポテトとたこ焼きなんかを2人とも抱えていた。

「いやあ、調子こいて、買いすぎちゃったな。食べきれるかどうか……」

 机に並べると確かに結構な量だった。

 案の定、新島は、「これ食べてよ」とか言って、フランクフルトなんかを俺の口に持ってきたり、かと思えば、「それ食べたいー」って言って、俺がクレープを食べさせてあげたりといった感じで、食べた量、俺7、新島3くらいで、結構、俺の腹はいっぱいになった。

 それからは、体育館のライブを見に行って、他の観客と一緒に2人でペンライト振って、盛り上がったり、輪投げとかヨーヨーすくいとかもして、2人とも全然で、笑い合ったりもした。

 約束通り、お化け屋敷にも2人で行った。いろいろある展示の中でも一番行列が長かった。でも、待つ時間は、2人で何が一番おいしかったとか、あの曲よかったねとか、いう他愛もない話をしていると、あっという間だった。

「ねぇ、怖いから、手、にぎっても……いい?」

 もちろんと俺が答えると、ぎゅっと指と指の間に、なめらかで少し冷たい新島の指が入ってくる。中を歩きながら、怖がるどころではなく、心臓がどっくんどっくん鳴っているのがうるさかった。でも仕方ないだろう。異性と恋人つなぎをしたのなんて、これが生まれたて初めてなのだから。

 気づけばお化け屋敷の外に出ていた。でも、新島は俺の手から指を外そうとはしない。

「1日目の文化祭はまもなく閉会します。閉会のセレモニーがありますので、生徒の皆さんは体育館に集合してください。繰り返します――」

 校舎のスピーカーから放送が流れる。人がぞろぞろと廊下を歩いて、体育館に向かう中、

「話したいことがあるの。だからついてきて」

 と新島は言って、手をつないだまま、体育館とは別の方向に俺をいざなう。

 着いたのは、校舎の端の、文化祭でも使われていない教室で、中に入ると窓の外の雨音が耳についた。

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