第11話
食卓には、唐揚げ、味噌汁、野菜サラダに漬物が並べられていた。
「いただきます」
「いただきまーす」
まずは唐揚げに箸を伸ばす。胡椒のきいたスパイシーな味付けに、なんだかどこかで食べたようななつかしさを感じた。
「どう?おいしい?」
うんとだけ、頷いてごはんをかきこむ。少し前まではずっと自分でご飯を作っていたけど、自分以外の人が作ってくれる御飯が、こんなにもおいしいなんてことは久しく忘れていた。
がっつくように夕食を食べる俺を、
2人とも食べ終えて、食後のデザートにアイスを食べていると、
「そういえば明日から文化祭なんだよね?僕も行っていい?」
目を輝かせて、こちらに身を乗り出してくる
しばらく咳き込んでから、俺は答えた。
「正直、気恥ずかしいけど、
そう聞くと、
「それじゃあ、風呂行ってくるから、洗い物よろしくね」
アイスを食べ終わると、そう言って、
リビングのテレビをつけてから、キッチンのシンクの前に立つ。スポンジに洗剤をつけながらテレビを見ると、ちょうど天気予報が映し出されていた。
「明日は曇りのち雨か……」
ほとんどの模擬店や出し物は屋内にあるからあまり影響はないが、せっかくなら晴れてほしいところだ。
心の中で、明日は晴れますように、とそう呟いて、俺は皿を洗い始めた。
屋上から見上げた空は、どんよりと重たそうな鉛色の雲で覆われていた。
そんな空を、俺と
屋上には出し物もなく、人ごみで疲れたのであろう生徒たちが、ちらほらとベンチで座って休んでいるという感じだった。俺たちの場合は、洋子と新島の模擬店の仕事が終わるのを待っているところだった。
本当なら、俺たち4人の仕事の時間は、ちょうど昼前に合わせていたのだけど、なぜだか12時からのフライドポテト担当のクラスメイトが来ず、洋子と新島が急きょ助っ人で、そのまま続けて次のシフトに入ることになったのだった。
「なんであいつら来ないかな……。仕事さぼりやがって」
遠くのベンチ怒鳴ってる生徒の声がここまで聞こえて来る。そういうことは、ありがちなことらしい。
でもだからといって、2人を待つ間、屋上に来なくても良かったのだが、なぜだか、有無を言わさぬような面持ちで、
屋上に来てからずっと深玖はだんまりだったが、ようやく空から視線を下げて、口を開いた。
「おまえ、俺にずっと隠してることあるよな……」
静かな声だった。それを聞いてすぐ、
「お前、結構遠いところろから、電車で来てるじゃん。中学も高校も、もっと近いところにあるのになんでなんだろうってずっと思ってて、でもつい最近、たまたま、お前と小学校同じだったやつと知り合って分かった……」
両親が死んでしばらくは今の高校がある市にいる親戚の家で厄介になっていて、中学で実家に戻ったけど、そのまま中高は、実家のあるところじゃなくて、親戚の家のあるこっちで進学したのだった。たぶん、
「これだけは言わせてくれ。俺は、どんなことがあっても一生、お前と仲良くするし、お前の前から消えてなくなったりなんかしないからな」
そう言って、大粒の涙を流しながら、
「俺、新島に告白しようと思うんだけど、それでも俺たち4人いままで通り仲良くできるかな?」
さっきまで泣いていた
「よく聞くだろ、仲良しな男女のグループの中でカップルが出来て友情が壊れるやつ。俺が告白したせいで、今の関係が崩れて、お前や洋子や新島を不幸にしてしまうかもしれないのが、俺は何より怖い。それにそもそも、新島が俺のこと好きじゃなかったら、それだけで、新島は嫌な気持ちになるだろうし……」
最後まで、黙って聞いてくれた
「まず言わせてもらうとだな、新島はお前のことずっと好きだよ。だから、俺たち3人とも、お前が新島に告白するのずっと待ってるし、なんならお前が告白するときは、俺も洋子に好きって言おうと思ってきたから。そうなりゃ、ダブルカップルの仲良し4人組なるだけだ」
そこで一度言葉を切って、
「それにだ、例えどんなことが起ころうとも、俺たち4人はずっと大切な友達だ。そこんところは変わるわけないだろ」
はあとゆっくり息を吐いて、俺は手のひらをおでこに当てる。わかっていたことじゃないか。
「なんなら、告白する勇気がなかなか出ないなら、俺が先に告白するぜ。そしたら気が楽になるだろ?その代わり、俺が洋子に告白した後、新島にちゃんと好きって言えよ」
俺は先に行くぜと言うなり、
腕時計を見るとちょうど2人の追加シフトが終わる時間帯で、ぽつぽつと雨滴も服に落ちてきだした。
ギュッとこぶしを握って、俺も仕事の終わった新島をつかまえに、屋上の出口に向かって走り出した。
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