第9話

 電車が家から最寄りの駅に到着し、駅から外に出ても、まだ空は赤かった。

 今日は遅くなると朝出るときに言ったのを思い出しながら、腕時計を確認して、いつもの帰り道とは違う方に足を向けた。

 なだらかに続く坂道をしばらく歩き、さらに階段を数十段上ると少し大きな公園に着いた。

 遊具はあるけれど、子供の一人もいやしない。それもそうだろう。ここで大勢の人間が死んだんだ。大人だけでなく、児童も多く死んだ。それを知っていながらここで遊ぶことを許す親なんていないだろう。

 かつて俺が2年だけ過ごした学び舎も、血で染まった運動場も、今はもうない。慰霊碑が公園に併設されているが、それを見る気分でもなく、階段に腰かけて、赤く染まった街を眺める。

 いつも悩みがある時は、ここに来ることが多い。良くも悪くも、ここで起きたことが俺の人生にとっての分岐点だったことは間違いない。

 もしも、俺が無理に頼み込まなければ両親が運動会を見に来ることもなく、2人は死ななかったかもしれない。でも、現実は、両親は死んでしまった。

 たらればを言うことに意味はない。俺が自分で選んだ選択だったから、その結果は俺自身が背負うだけのことだ。

 だからこそ選択に迷ったときはここに来る。自分が選ぶ未来を背負う覚悟を自分に問うために。たとえそれがどれだけひどい悲劇の結末になっても、その罪から目をそらすことがないように。

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