第7話

「お二人さん、準備さぼって、どこ行ってたの?もう終わってみんな帰っちゃったよ」

 教室に戻ると、新島と洋子が教室の端に寄せられた机で、勉強をしながら俺らが返ってくるのを待っていてくれた。

「あれ言ってなかったか?書道部の展示の準備に行くから抜けるって」

 と深玖しんくが頭をかきながら答えた。

 午前中は確かに、明日開催の文化祭で、クラスでやる模擬店の準備をしていたのだが、午後からは俺と深玖2人とも、入っている書道部の手伝いに行っていた。深玖はともかく俺自身はあまり熱心には部活に顔を出してはいないのだが、展示の手伝いくらいは、人手がいるということで参加したのだった。

「そう言うのはちゃんと言いなさいよっ」

 そう言って、洋子はずこずこと、深玖の肩を小突いた。

 帰るために荷物をまとめながら、明日の準備の終わった教室を見渡した。机を6つぐらい固めて、3つの調理台が作られていて、その上にはフライヤーが全部で8つほど置かれている。さっき入ってくるときに見たが、教室前には、「こだわりのフライドポテトとたこ焼き」という謳い文句の看板が置かれていた。その他、教室前の廊下とかが、思い思いに飾りつけされていた。

「こだわりってのは詐欺じゃない?」

 4人で、生徒玄関に向かって歩きながら、俺は言った。

「たこ焼きとかのことか?」

 深玖に向かって、おう、と答える。

「まあ、確かにどっちも冷凍だからねー、でも世の中ってそんなもんじゃないの?」

 全く気にしていないような感じで、軽く新島が言う。

「いいのよ、別に味なんてものは。文化祭という祭りの中で、買って食べながら、いろいろと巡ることに価値があるんだから」

 そう言って、洋子が締めくくった。

 生徒玄関から外に出ると、もう空が、かなり赤みがかってきていた。

 夕陽が4人の影を長く伸ばす。深玖と洋子が前、俺と新島が後ろ、で並んで歩きながら、少し寂し気に深玖が呟いた。

「来年は、試験勉強とかで忙しいだろうし、純粋に文化祭楽しめるの、今年で最後だな」

「確かにね。それに来年は私たち、クラスもばらばらになるかもしれないし……」

 普段は鋭い突っ込みを入れるのに、なぜだか、今は、洋子もしんみりと話す。

「2人とも何言ってるのっ。クラスが分かれたって一緒に楽しめばいいし、受験生でも文化祭の2日間ぐらい遊んだって先生も文句言わないよ」

 あせったように新島が早口でしゃべる。

「それにまだ今年の文化祭は、始まってもいないんだよ。未来のことを考えるより、今を楽しまないとっ」

 それもそうだと、深玖も洋子も笑う。

「なに感傷的になってんだか……」

 とぼそっと俺が言うと、深玖と洋子、2人ともに問答無用で頭をはたかれた。

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