第2話
「もう外してくださって結構ですよ」
目隠しを取って横の窓を見ると、鬱蒼とした木々が左から右に流れていた。
車内では、運転席に特殊科の一般職員、助手席に名前の知らない同級生、そして後部座席に俺と新島が座っていて、目隠しを外した新島と目が合う。助手席の奴はいびきをかいていた。
あの後、校舎の一室で、高一が習うような神代学の復習と、今日の参拝の手順の説明を再度、一通り受けた後、こうして車で、名前のない神社に向かって、どこかの山の中を走っているのだった。
「はあ、もっちょっとで、眠っちゃうところだったー。高級車の座り心地はやっぱり違うね、
全く眠そうじゃなさそうな声と顔で新島が話しかけてくる。
「どだろ?普段、あんま車に乗らないから、わかんないね」
今乗っている車は、よく政治家が乗っているようなイメージのある、黒色の高級感がにじみ出ているような車だった。
「実際高いようですよ?私は車に詳しくないんで車種とか知りませんけど。なんでも『一生に一度の出来事で、大人になる上での一つの儀式とも言えるんだから、厳かに送り届けるのが子供たちへのエールなんだ』とかなんとか、私の上司は言ってました。ようするに昔で言う成人式みたいなもんなんですよ。
まっ、個人的には正直どうかと思いますけどね?」
意外にも、流れるようなしゃべり方で、特殊科の人が会話に参加してきて内心驚いた。新島の方は、なぜだか少し首をかしげていた。
「どうして、どうかと思うんですかね?」
新島の物言いは、少し怒気を含んだような感じだった。それに気づいたのか、ルームミラー越しに、特殊科の人の目線がこちらを向いた。
「お二人は、神のことってお好きですか?どうでしょうか?」
俺も新島も即答はしなかった。しばらくして、先に答えたのは俺だった。
「好きでも嫌いでもないけど、しいて言うなら、嫌いだな」
「どうしてでしょう?」
「やっぱり、十年に一回くらい、邪神のせいで大量に人が死ぬから」
嫌でもやはり、両親が死んだあの日のことを思い出してしまう。かと言って、全ての神がああいった邪神でないことも高校2年の俺には十分わかっている。
「なるほど」となぜだか神妙そうにつぶやく特殊科の人に被って、今度は新島が答えた。
「私も、べつにどっちでもないんですけど、どちらかといえばー、好きかもしれない」
「理由は何でしょう?」
「シークレット、ですっ」
少し口角の上がった新島の顔に、正直、俺はイラっと来た。たまに、こいつはよくわからないところでよくわからないことを秘密にする。
特殊科の人も、はーっと、ため息のように息を吐いた。
「ニコチンがほしいところですね。いや、そんなことはどうでもよくて、まっ、私の経験上、神と関わるとろくなことにならないんで、神との契約のための儀式なんて、控えめに言ってクソですよ」
そう言い終わると、少し肩を下げて、また、はーっと特殊科の人は息を吐いた。
「まっ、でも心配ないですよ。だって、年間、神と契約できるのは一握りですから。あと数時間後には、ただ山に来て帰っただけだった、なんて言うことになりますよ」
確かに、神と契約できた奴なんて、少なくとも俺の学校では聞いたことない。情報統制が敷かれるなんて噂もあるけど、やっぱりほんの少数だけなのだろう。
車はどんどんと谷に沿った道を山の奥へ奥へと進んで行く。窓から見上げた空は、学校で見た時と違って雲が広がって薄暗かった。
新島は本当に眠かったらしく、少し無言の間が続くと、すーすーと安らかな寝息をかいて、首を傾けて眠っていた。
それから、神社の駐車場に着くまで、音楽もかかっていない車内には、とくにこれと言った会話もなかった。
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