第7話



 心にもやを抱えたレンジが店内に戻った時、既に事件は起きていた。


 妙に緊迫した空気が漂う店内。


 何事か? と売り場を覗くと、そこには数人の黒づくめの男達がランカを取り囲んでいた。

 ランカは店の商品である剣を構え、周囲の黒づくめも短剣をランカに突きつけていた。

 床に倒れた男も二人ほどいて、既にランカが抵抗した形跡が見える。


「な、これは……!」

「店長さん、強盗よっ!」


 近くに居た客が教えてくれた。

 店内にいた客もランカに加勢しようとした。


 しかし、レンジが油断した。

 レジに隠れていた強盗の一人に背後から拘束されて、捕まってしまったのだ。


「レンジ!!」


 レンジを拘束する強盗に剣を向けるランカ。


「おっと、ランカさんよ。店長の命が惜しければ、剣を置きな。周りの客もな!」


「……」


 みんな静かに武器を放棄し、最後の最後まで小剣を握っていたランカが、悔しそうな表情でその場に置いた。


 それを見届けた強盗のボスが声を高らかに叫ぶ。


「よし、レジから金を取れ! 金目の商品を袋に入れろ!」


 強盗達は、見事なチームワークでレジを開け、高価なポーションを奪い始める。

 ランカはその光景を黙って睨みつけ、わなわなと唇を震わせている。


「ボス、目星の物は奪いました」

「……よし、じゃあランカも貰っていくぞ」


「な、なに!?」


「こんな美人、めったに居ないもんな!」

「俺の女にする」

「ボス、みんなにも分けてくださいよ!」

「飽きたらくれてやるよ」


 勝手な事ばかり言う強盗達。戸惑うランカ。

 様子を見ていたレンジもランカの危機に、自分を拘束している強盗の短剣に『ぽかぽか』のスキルを発動した。


「アッッツ!!」


 高温になった短剣を思わず手放す強盗。その隙に、強盗からすり抜けてランカを庇う様に両手を広げると、ボスに叫んだ。


「店の物は何を取ってもいい!! でもランカを連れて行くのだけは許さない!!」

「レンジ……!」


「おーおー、騎士ナイトぶりやがって!」

「後で始末しようと思ったが……やっちまえ!!」


 強盗達が、剣をレンジに差し向け、襲い掛かろうとした時だった。




 ――店内に、生温い風が吹いた。


 

 なんて気味の悪い空気だろうか。

 その空気と混ざり、ゴオォォという咆哮が響いたと同時に、怒号が店内に駆け巡った。



「いらっしゃいませぇぇぇええええええええ!!」




 魔王が、現れた。

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