第5話


 試用期間六日目。

 

 魔王もすっかり一通りの事は出来る様になっていた。


 しかし、仕事の覚えたてはやはりミスが多くなる。魔王も例外ではなかった。

 だが、真面目な魔王は「なぜ間違えたのか、どうしたら次はミスしないのか」を考えて、ミスを繰り返さない様に努力していた。


 そんな姿を見て、レンジはいよいよ見極める時がきたと思った。


 真面目で勤勉で、週七勤務、夜九時~朝八時まで働いてくれる。


 ……採用か?


 ……採用しかなくね??


 本日ランカは不在。

 週に一度の固定休日である。


 週休二日で良いとレンジは言ったが、ランカは働きたい! と仕事にとても熱心なのだ。

 レンジ同様、貴族出身のランカ。

 お金に困っている訳でもないし、何故だろう? とトリプルマダムスに疑問を投げかければ「あらぁ、店長テンチョってば、けっこう鈍いのね〜♪」と笑って返されたが、あれは一体どういう意味だったんだろう……?




「オウマさん。仕事、どう?」


 休憩時間。ここ数日働いた感想を、魔王本人に聞いてみた。

 魔王はここへ来る道中に狩って来たお弁当、鹿の肉にがぶりついていた。


「……た、楽しいです!」

「そう。君はとても真面目だから、本採用にしようと思っている」

「!!」


 魔王の顔が綻んだ。


「……でもさ、本当は、そうやって鹿を倒したりする方が本当は楽しいんじゃないのかい?」

「……」


 鹿の肉を食べる魔王の手が急に止まった。


「……俺……食べる以外で……自分から、倒したことないです」


「……!」


「過去に……俺に危害を与える人間、たくさん倒したけれど……自分から、倒したこと、ないです」


「……あ、ごめんな。……そうだったんだ……」


 勝手な偏見で、魔王を見ていたレンジは思わず恥ずかしくなった。

 先入観だけで「魔王は殺戮が好き」と思い込んでいた自分に。


 それから魔王は言う。


「俺……何度も見知らぬ人に、「死ね」「殺す」って言われてきた人生、とても悲しかった。……でも、ここは違う。……「ありがとう」って言われる」


「!」


「「死ね」よりも百倍、嬉しい」



 そう笑う魔王は、同じ感情を持つ『普通の人』だった。

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