第4話


 魔王はランカの教育の元、着々と仕事を覚えていった。


 当初は異形の店員にビビっていたお客様達だったが、彼がとても大人しく、一生懸命で真面目に働く姿は、瞬く間に好感を得ていた。


「体力回復薬のポーションはね、売れ行きがとても良いの。残りが半分になったら、補充をしてね」

「はいぃ~!」


 魔王はポーションの瓶を、ガチャガチャと商品棚へと入れて行く。


「ポーションは高価だから、万引きが多いのよ。特に深夜は多いから、気を付けてね」

「は、はいぃ~!!」


「怪しいお客様の場合は、元気よく挨拶をし「すみませーん!」」


 お客様が会計を呼ぶ。


「はーい! さ、オウマさん、レジお願い!」

「は、はいぃ~!!」


 ドスドスとレジへと急ぐ魔王。スムーズにレジ業をこなしている。

 そんな姿を見守るレンジとランカ。


「……真面目な人ね」

「うん、元魔王とは思えないくらい謙虚だしね」

「オウマさんは、たぶん大丈夫よ」


「……うん」


 ランカはそう言うけれど、レンジは店長として彼がまだ「大丈夫だ」と言い切ってはいけないと思っている。


 過去にだって数日間真面目に働いた、と思ったらいきなりトンズラした人間はたくさん居る……。


「あのー!! そっちの店員さん!!」


 考えに耽っていると、お客様の声に現実に引き戻されたレンジ。


「は、はい!」

「肉まんを温めてって言ったのに、店員さんがやってくれないんだけど!!」


 戦士のお客様は、腕を組み少し苛ついている様子。その間も魔王は知らない業務にオロオロしていた。


「いけない。教えていないわ!」


 ランカが慌ててレジへ行く。


「申し訳ございません! オウマさん、このお皿に肉まんを乗せて」

「は、は、はいぃ~!!」


 レジの隣に設置された、乳白色のお皿を指差すランカ。

 実はこのお皿、特殊な物なのだ。


 レンジの能力『ぽかぽか』の力を凝縮し、結晶化した石をお皿の窪みにセットすると、なんと『ぽかぽか』が誰でも使えるお皿なのだ。


 これも他店舗との差別化の一つ。

『アットホームマート』の唯一無二の武器である。

 

 お皿の隣には砂時計がある。


「いい? 肉まんは砂時計一回よ」

「は、はいぃ~!」


 魔王は真剣に砂時計を眺め、サラサラと落ちるピンク色に染められた砂を凝視する。

 次第にお皿の上の肉まんから、ふんわり良い匂いが漂ってくる。

 最後の一粒の砂が落ちるや否や、魔王はお皿から肉まんを取り、紙袋に入れた。


「申し訳ありませんでしたあぁあああああ!!」


 深々と頭を下げる魔王。

 すると、お客様の戦士は「ははは」と笑い、


「いいよ、いいよ。ありがとう、新人さん、頑張ってね!!」


 と手を振って去っていった。



 そのお客様の背中を追う魔王の目が、輝いていた。

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