第3話


 ――さて。

 魔王がお仕事を始める前に。


 皆さんにもレンジのお店『アットホームマート』をより詳しくを知って貰うため、一旦CMコマーシャルを挟もう。




 +++




 ランカ「あ、いっけない! マッチが残りわずかだわ!」


 マダムA「いやん、携帯食も切らしている~」

  (トリプルマダムズの一人。BCも同様)


 マダムB「でも今は真夜中の十二時……」


 マダムC「ここは町の外だしー、魔物もたくさんー。困ったわー」

 

 ジャジャーン♪


 レンジ「そんな時『アットホームマート』なら大丈夫!!」


 女子一同「あ、貴方は?!」


 レンジ「『アットホームマート』なら年中無休! 24時間営業!!」


 ランカ「軽食に携帯食!」

 マダムA「武器・防具・衣料・寝具も!」

 マダムB「薬や救急キットもあるわよ~!」

 マダムC「ロープやつるはし、ランタンも取り揃えているのねー!」


 レンジ「そうさ、困った時は『アットホームマート』に来れば、大丈夫! ほっと一息、安心の我が家『アットホームマート』へ!!」


 ランカ「北の森の入口。オレンジのお店が目印よ!」



 +++




「まず、レジを覚えましょう」


 ランカはピッと人差し指を立てて、魔王をレジへと誘った。

 ちょうど、常連さんである戦士と魔法使いの兄妹がやって来た。


「店長さん、ランカちゃん、こんばんわあああぁあ!?」


 戦士の兄が、凶悪な雰囲気を醸し出す魔王に後ずさりする。


「ま、ま、魔族?!」


 思わず兄の後ろに隠れる魔法使いの妹。

 狼狽える魔王とお客様の間にランカは立ち、紹介した。


「大丈夫です。うちの新人さんです」


 魔王は初めて来たお客様にオロオロしている。レンジは見兼ねて背後から小声で「いらっしゃいませ、だよ」と囁いた。


 すると、魔王は目を光らせ、ゴオオォォという効果音を発しながら叫んだ。



「い、いら、いらぁ、いらぁっしゃいませーー!!!!」

「は、はいいいいぃぃぃぃーー!!」



 兄妹はその気迫に圧され、直立不動で返事を返す。


「オウマさん、もっと小声で良いわ。それとスマイルスマイル♪」


 魔王はハッとし、例の「ニタぁ〜!」を付けくわえた。

 兄妹も涙と鼻水を流しながら「ニタぁ~!」を返す。



 さて、お客様の兄妹は商品を持っていない。

 けれどレジに来た……ということは、レジ内にある商品がご所望らしい。


「今日は何が必要ですか?」


 ランカが問うと、


「さ、サンドイッチを二つ」

「はい! オウマさん、ショーケースの中に入っているサンドイッチを二つ取ってくれる? もちろん、ケースにあるトングでね」

「……は、はいぃ!!」


 ドシドシとショーケースへと向かい、魔王にとって、とってもちっちゃなトングを器用に持った。そしてショーケースを爪で開けて、サンドイッチを一つ取り出すと……。

 魔王の動きが止まる。入れる袋がないのだ。


「紙袋は、ショーケースの下の棚よ!」

「……は、はいぃ!!」


 紙袋をグシャリと握って取り出し、サンドイッチを一つ、器用に入れた。それから続けてもう一つ入れた。


「じゃあ、お会計しましょうね」

「……は、はいぃ!!」

「ここに、スナックの値段表があるからね。サンドイッチは一つ、150エムね」


「ひゃ、150エムです(ニタぁ〜!)」


「ダメダメ、二つだから300エムよ」


「!!……は、はいぃ! 300エムです(ニタぁ〜!)」


 妹が恐る恐る、財布から500エム硬貨を出す。


「さ、おつりはレジの中よ。ここを押すと、レジが開くから」

「……は、はいぃ!」


 レジのボタンを押すとチーンと鈴の音と共に、種類別に並んだミッドランド紙幣や硬貨が現れた。

 魔王は大きくて太い指で100エム硬貨を二枚出すと、妹に差し出した。

 妹は震える手でその二枚の硬貨を受け取った。


「ありがとうございました♪」

「……あ、ありがとう、ござぁいましたぁああ(ニッタぁ〜!!)」


 二人は紙袋を受け取ると、ひえええ! と一目散に逃げて行った。


「良いわね! レジはそんな感じよ」


「……(ニタぁ〜!)!!」



 ――バイト初日。


 魔王は『ニタぁ〜!』のスキルを覚えた!


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