第2話


 面接の後、スタッフが居ない深夜枠をなんとか一人で切り盛りし、東の空が薄っすらと明るくなって来た頃、従業員のランカが出勤して来た。


 ランカはレンジの幼馴染み。

 見た目は黒髪ストレートに、眠たげな藍色の目をしたおっとり美女だが、剣を持たせたら、光速に近い剣裁きで強敵をバッタバッタと倒す元戦士。

 レンジが店を立ち上げた時、戦士業を引退し、お店の従業員になってくれた。


 レンジは経営能力はあっても、有事の際、対応出来る戦闘能力はほとんど持っていなかった。

 本来だったら、勇者にだってなれたであろうランカ。

 しかし、頑なに一緒にお店を経営したいと言い寄られ、今や欠かせない仕事の相棒ビジネスパートナーとなっていた。


 更衣室で制服の【アットホーム】というロゴ入りオレンジ色エプロンをつけ、綺麗な黒髪を一つしばりにしたランカに、さっそく昨日の面接の話をした。


 ランカは信じられないとばかりに、魔王が持参した履歴書をくまなく読んでいる。


「……確かに魔王が代替わりした話は聞いていたけれど……」

「やっぱり不採用だよね」


「いえ、仮採用してみましょう!」


「は!?」


「だって、出勤希望日数が週七日で、希望勤務時間が夜の九時~朝の八時までよ? こんなに働いてくれる人は滅多に居ないわ! 体も頑丈そうだし」

「いや、確かにタフそうだけど」


「レンジだって、最近は人手不足でずっと働き詰めでしょ?」

「……おかげ様で、深夜枠、三十連勤中……」

「レンジが休むためにも、新しい人材が必要だわ。とりあえず、試用期間ということで、一週間雇ってみましょうよ! 教育係は私がやるわ!」


「え」


「なによ? 私じゃダメなの?!」


 ぷんすこ、と頬を膨らませるランカ。


「だって、昼間のリーダーは??」

「昼間はトリプルマダムズが居れば大丈夫よ!」


 ――トリプルマダムズとは。

 開業当時から長く働いてくれている元戦士・元魔法使い・元僧侶のおば……お姉さん達三名の事である。



 そんな訳でランカは魔王へ仮採用の通知を送り、その日の夜、魔王はノソノソと北の森からやって来た。



 ◆



「オウマさん、初めまして! 従業員のランカです。まずはこの制服を着てください」


 ランカは制服のエプロンの中で最も大きい3Lを渡す。

 魔王はそれを受け取ると、モタモタしながら、首に掛けた。

 赤ちゃんのヨダレかけの様になった。


「では、さっそくお仕事の説明をしますね!」

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