第81話

 さて、パレードが終わり晩餐会も終了。

 ここからが本番だ。

 次の日、国中の貴族を集めて貴族総会が行われた。

 戦争中の貴族たちも召集される。

 欠席は許されない。

 さすがに無理なところには嫁たちを派遣した。

 吸血鬼くらいだったら楽に倒せるだろう。

 さらにガキどもも嫁の副官として派遣。

 上級士官の訓練になるだろう。

 たとえ嫁たちを頭数に入れてもこの国は圧倒的に士官が足りない。

 上級士官である領主が逃げずに領地とともに死を選ぶのでこうなる。

 国土の奪還が進めばすぐに人手が足りなくなるだろう。

 というかすでに足りない。

 なので学園に泣きついて副官扱いで生徒を動員した。

 勝ち確とまでは言わないが、最悪の状況になっても俺がどうにかするので学園の安心して学生を送り出せる。

 学生の方もある程度の安全性があって経歴に箔がつく。

 勝ち馬に乗りたい野心がある子はこぞって志願した。

 普段、嫁がケガするのを嫌がってる俺だが、今回は自信があった。

 その証拠に……。

 貴族総会でまず俺が挨拶。


「まずは忙しいところ集まってくれた諸兄らに感謝を申し上げる」


 感謝を述べつつEMPグレネードのピンを抜く。

 どん!

 EMPグレネードの電磁波が会議場全体に影響を与える。

 ポカーンとする連中をよそに苦しみ出す一部の貴族。

 吸血鬼だ。

 体が崩壊し銀色の粉になって崩れた。

 粉の成分はナノマシーンだ。


「だまし討ちしたようですまなかった。いま粉になったのは吸血鬼だ」


 頭を下げると、今になって貴族たちが震え出す。

 友人やご近所さんが吸血鬼だったものもいるだろう。

 まさかこんな恐ろしい陰謀が水面下で進んでいたとは!

 かなたが消滅した貴族を記録していく。

 その間、王様は自らの口で説明した。


「諸君の中に吸血鬼がいるとの情報を得た。この計略はマコトとワシで秘密裏に行うことに決めた。これはマコトの魔法で邪悪なものを聖なる炎で焼く呪文だ。人間には効果がないので安心してくれ。疑うようなまねをしてすまなかった。だが……この手しかなかったことだけは理解してほしい」


 王様が頭を下げる。

 ここまで言われちゃ文句も言えない。

 実際、吸血鬼が紛れていたわけだし。


「へ、陛下! 吸血鬼の家族はいかがいたします。根切りでしょうか!?」


「いいや、全貴族の家で魔法を使う。半精霊であるマコトの細君が呪文を執り行うだろう。吸血鬼は人を殺しなりかわる。もしかすると諸君らの家族もすでに吸血鬼の犠牲になったものがいるかもしれない。だがマコトを恨まないでくれ。恨むならこの我を。王を恨んでくれ! この言葉は議事録にも残す! 犠牲者には罪はない! 繰り返す、犠牲者に罪はない。悪いのは吸血鬼だ。そしてこの作戦の責任は我にある!!!」


 この国の王侯貴族は演出力の化け物ぞろいだ。

 運でつかみ取った結果でもいい話風に改変する。

 今回も王様が自分を恨めと宣言することで誰も王様を恨めなくなった。

 吸血鬼の存在はそれほど脅威だし、実際いくつもの家がつぶされている。

 人類の不倶戴天の敵なのだ。

 だが人間の感情はわりきれないもの。

 心のケアは必要だ。

 かなたはそっと耳打ちした。


「マコト様。吸血鬼を発見した家にはカウンセラーを派遣いたします」


 この素早さよ。


「それと、犠牲者の家にお見舞い金を払うことを提案します」


「了承する。多めに払ってくれ」


「かしこまりました」


 ここで払った金など秒でなくなる。

 葬儀に継承式典に夜会に挨拶回りに……。

 恐ろしい勢いで経済が回ることだろう。

 元手なんてかかってないしな。

 そもそも中世レベルの文化である。

 市中に出回る通貨の総量など誰も知らない。

 そもそもばらまくのは悪貨じゃないしな。

 宇宙品質の記念コインレベルの良貨だし。

 それにどこまでばらまいても問題ないかのシミュレーションは何度もやった。

 そもそも、この国の経済。

 人口から割り出した適正値の数分の一しかないのだ。

 バブル数回起こしてもいいよねレベルである。

 やっちゃえやっちゃえ!


 こうしてシロガネ公爵家の英雄譚&悪名が響き渡ることになった。

 王様も歴史に名を残すことになっただろう。

 当然、サーシャパパは俺とともに他国との連絡路を奪還した英雄に。

 サーシャパパくらいの大貴族にもなるとサーシャ以外にも大量の子どもがいる。

 特に非嫡出子。要するに戦災未亡人との間の子どもたち。

 未亡人を養うのは貴族の義務だからな。

 家を継げないもの、家臣として仕えるもの、他家に養子に出されるもの。

 宿屋のせがれくらいは普通。

 開拓地の村長予定者までいる。

 婿取り争奪戦が始まったのである。

 そりゃね、娘を俺の嫁にするよりは確率が高い。

 派遣した嫁たちだが、無傷で帰ってきた。

 吸血鬼は貴族に成り代わって中から指令を出していたのだ。

 八百長もいいところだ。

 その吸血鬼を始末したことで怪物は総崩れ。

 そもそも型落ちナノマシンの吸血鬼と人型労働生物ごときがパルスライフルとドローンの爆撃に耐えられるはずがないのだ。

 これにより王国は国土の大半を平定できたわけである。

 次は半分以上奪われた国土の奪還だ。

 ……と思うじゃん。


「次はシャルロット様との結婚式ですね」


 かなたが言い放った。

 来たか……。

 とうとう童貞を捨てる日が……。

 長かった苦難の日々。

 次々と結婚していく同級生。

 10代半ばだというのにクラスの半分がすでに父親。

 基本、自動的に結婚できる社会。

 童貞という概念すら存在しない世界。

 バレたら士道不覚悟につき切腹のところだった。

 さらば童貞!!!


「マコト。全権大使としての外交及び交易路の開拓を命ずる。結婚はその後でいいな」


 ガッデエエエエエエエエエエエエエエム!!!

 こんにちわ童貞!!!

 すっかり顔なじみだね!!!

 ちょんちょんっとセレナが袖を引っ張る。


「お兄ちゃん、うちならいつでもいいよ」


「俺はちゃんとしたいの!!!」


「めんどくせえ童貞だな!!!」


 るせー!!!

 こだわりがなければここまで童貞こじらせてねえわ!!!

 さーて工事の手順脳にダウンロードしとこうっと!

 あはは楽しいな!!!

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