第80話

 村に着くとサーシャパパが大声で叫ぶ。


「バルガス伯爵家当主エリックである! 森の向こうから約束を果たしに参った!!!」


 すると村から人が出てくる。


「も、森の向こうからですと」


「応。森の向こうから参った! 我が婿、シロガネ公爵家マコト様が怪物から土地を奪還された!!!」


「あ、ああ……なんということだ……」


 やって来た老人。

 おそらく村長が泣き崩れた。


「我らは……世界は滅びる運命ではなかったのですな! 我ら人は生き残ることができるのですな!」


 おいおいと泣いた。


「ご老人、待たせてすまなかった」


 そう言ってサーシャパパは村長と一緒に声を上げて泣いた。

 護衛も村人も誰もが声を上げて泣いたのだ。

 それを見て俺は肝を冷やしていた。

 俺は見誤っていた。

 この惑星の貴族は……ヤバい。

 そう、彼らの本質は異常なまでの演出力。

 民と一緒に泣くし、感情を揺さぶる手段を意識せずに使う。

 生まれながらの政治家。

 ああ……自分たちの尺度で測ってはならなかった。

 これこそが貴族なのだ。

 シャルロットちゃんもおそらくこれができるのだ。

 クラウザーくんに至っては息をするように人を感動させるだろう。

 すげえ……すげえよ貴族!!!


「こういう風に特化したのが貴族なんだね、お兄ちゃん」


「これはマネできる気がしない」


「演説プログラム搭載の娘ならできるかもよ」


「俺、いらなくない?」


「種馬はお兄ちゃんだけだよ」


 く、殺せ!

 近くの都市に早馬が向かう。

 待っている間に村の近くにテントを張る。

 村長が家に泊まって欲しいと言ったが固持。

 他人様の物資を使うのはよくない。

 むしろ物資を出す。

 ドローンで酒と食べものを運ぶ。


「婿殿……たくさんありますな」


「……送るんで内緒にしてね」


 という薄汚いやりとりがあったが気にしない。

 酒を振舞い大宴会。

 ……え? 酒ダメ? 共和国法で禁止されてる?

 けち。

 嫁たちの大半の反対で酒は飲めなかった。

 オレ……カナシイ。

 セレナが「わかってるよな?」とこちらを見ていた。

 なので俺はお茶とジュース。

 お通夜状態。

 でかい焚火の前でダウナー状態で酒盛りを眺めている。

 だけどサーシャパパもほとんど酒を飲んでなかった。

 酒好きのおっさんなのに。


「いいですか婿殿。こういったときは口を濡らす程度にしておくのです。部下や村人に飲ませるのが貴族の役割なのです」


「なぜですか?」


「耳を澄ませてください。聞こえるでしょう。蹄鉄の音が」


 耳を澄ますが鳥の声が聞こえるだけだ。

 超能力か? と思ったがそういう気構えのようだ。


「すぐにこちらの貴族が来るでしょう。私なら人生をかけて急ぎます」


 そう言ってお茶を飲む。

 サーシャパパ……恐ろしい子。

 本当に数時間で馬の音が聞こえてきた。

 まずは一騎。

 大急ぎでやってきた。


「私はミルサプ伯爵家騎士団のジンと申す! 森の向こうから来たと仰るのはあなた様ですか!」


 サーシャパパは頭を下げた。


「こちらはシロガネ公爵家当主マコト閣下。それがしはバルガス伯爵家当主エリックである! このような遅い時間にも関わらず急いでいただきありがたい!」


「は! マコト様、エリック様! いましばらくお待ちください! いま主人に報告いたします!」


 そのままドドドドドドと大急ぎで去って行く。

 さらにしばらく待つと数十騎の馬を従えた男がやって来た。


「ミルサプ伯爵家ザイフである! 我が友よ! よくぞ参った!!!」


 ワカメ頭で痩せた男だった。

 あまり太れない体質のようだ。

 だが鍛えられた体なのはわかる。

 減量後のボクサーのような男だった。


「おお、友よ!!!」


 二人は声を出して泣き、ハグをした。

 知らないおっさん二人のハグだというのに、その場にいた連中は涙を流していた。

 すっげえ。

 で、朝まで大宴会。

 飲みまくり、踊りまくり、歌いまくったわけだ。

 なお、村のお姉さんたちに誘われまくったが、俺が童貞のままであったことだけは強調させてもらう。

 セレナの監視下でエロいイベントなど起きようもない。


「子作りする?」


「しないっす」


 次の日、ほぼ全員が二日酔いで昼まで動けなくなったので俺はテントでふて寝。

 動けるようになって家に帰る。

 数年後の再会を約束して。

 でもたぶん、安全な通路の開通は半年後くらいかな。

 防護服で科学プランターの地下通路を通り、キャンプに戻る。

 キャンプから王都に帰る。

 先にサーシャパパのところの伝令が行っているので王都では歓迎パレードが用意されていた。

 庶民は飲めや歌えの大騒ぎ。

 俺たちは馬車から手を振る。

 宮殿に着くとシャルロットとサーシャがいた。

 嫁枠なんだって。

 セレナが耳打ちする。


「晩餐会のドレス、嫁たちの分発注しておいたよ。どうよ。できる嫁でしょ」


 たしかに凄い。

 絹は当たり前。

 共和国の最新繊維まで使われている。

 王様に報告して、出口で倒した爬虫類の死骸を献上する。

 志乃ちゃんは泣いて嫌がったが、かなたの判断で献上することに。

 これには王様大喜び。

 さっそく見せびらかしてる。


「マコト殿が! 王族のマコト殿がやり遂げたぞ! 我が国、いや人類の悲願を果たしたぞ!」


 要するに、分断された向こう側と再び会う約束を果たしたわけだ。

 悪い竜を倒して土地を奪還したストーリーにおさまるのかな。

 めちゃくちゃ褒められ、夜。

 晩餐会である。

 嫁全員連れてくると会場に入らないので、セレナとかなた、サーシャとシャルロットちゃんに代表してもらう。

 どこの家もそんな感じみたいよ。

 少ない家でも嫁は10人以上いるし。

 くっころちゃんや志乃ちゃんは「絶対行かない」って言ってたのでこれでいいんだろう。

 たぶん。

 少し不安。

 ドレス姿の嫁たちはとてもきれいだった。

 シャルロットちゃんが上機嫌で腕を組んでくる。


「ごめんシャルロットちゃん。自分不器用なものでどう褒めればいいか……きれいです」


 するとシャルロットちゃんはほほ笑む。


「そういうところ、好ましく思う」


 サーシャちゃんはフフフと笑う。


「容赦ない姿とのギャップがたまりませんわ」


 エロい……。

 こうして夜は更けていったのである。

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