第79話
ドローンを要請して爬虫類の死骸を運ぶ。
さーて、帰ろうっと。
地上部分は危険多い。
毒ガスまでは防護服でなんとかなるが、沼や崖などの自然環境はどうにもならない。
そのまま戻った方が楽だろう。
危ないところはマッピングしたので今ごろ安全な通路を作っているだろうし。
戻ると途中の通路は修理こそされてないが、危険生物がいるところは立ち入り禁止の看板が立っていた。
水没した部屋のドアは溶接で塞がれて、別の入り口が設置されていた。
汚染の除去からはじめるのだろう。
オペレーターの数が多いから作業スピードが半端じゃない。
仮設の階段やハシゴなども設置され汚染された区画を避けてキャンプに戻る。
するとテントの前でサーシャパパが小躍りしてた。
なにやってんだ、あのオッサン。
俺が防護服を脱いで着替えるとオッサンが走ってくる。
「むーこーどーのー♪」
きらんッ♪
いい笑顔である。
「ドラゴンちょうだい!」
「うん? え、あれ、ドラゴンなの!?」
仕留めたのはトラック程度の大きさだ。
勝手にドラゴンは体長100メートルくらいあるのかと思ってた。
だがよく考えたら体長100メートルの生き物が地上で生きてられるはずがない。
自重で内臓潰れるわな。
「いいっすよ。義父上がしとめたことにしてください」
これ以上の武功いらんし。
武功とか名誉は貯められるものでもない。
ある程度詰んだら崩れないように仲間にあげてしまえばいい。
「うわーい!!!」
どうでもいい話だった。ここまでは。
セレナがやってくる。
「お兄ちゃん! 衛星地図によると人間の集落が近くにあるみたい」
その台詞を聞いた瞬間、サーシャパパの空気が変わった。
「婿殿。集落と聞こえましたが」
「えーっと、制圧した地下施設を探索したところ森の向こうに出口がありまして……」
シリアスモードになったダンディ親父がドアップになる。
「出口……それに集落! それは真ですか!?」
「え、ええ。ドラゴンもそこで狩ったものですし」
サーシャパパはしばらく考える。
そして大きな声を出した。
「騎士団よ! いますぐ王都に伝令! 隣国との通路ができたと伝えるのだ! 残りは我とともに征くぞ!」
あん?
いや危ないんですけど。
「あの、義父上。単純に危ないのですが。毒ガスだらけなんで」
「それでも征かなければならぬのです。これは貴族家の家長としての義務なのです」
うーん、サーシャパパ。
いつものゲス顔じゃないんで断りにくいぞ。
「わかりました。一緒に行きましょう。ただしちゃんと防護服着てくださいね。怪我したら本気で怒りますので」
「仰せのままに」
計画が変更になったセレナはむくれていた。
セレナをなだめつつサーシャパパに防護服を着せる。
騎士数名にも着せて用意完了。
そのまま地下に行く。
「立ち入り禁止区域に入ると死にますので」
「感謝いたす、婿殿」
「ところで義務ってなんです?」
「ご存じの通り我々の生存圏は年々狭まっております。街や村は滅び、他国との交易路は途絶え、貴族の家系は途絶え、他国が存続しているかすらわからぬ……というのが嘘偽りのない現状でございます」
「外国、あるんですね……」
人間はそれでも国家を作るわけか。
「あまりに広大な領土を統治する方法は存在しませんから」
あ、俺の間違いだったわ。
単に物理的な限界だ。
馬で伝令が走っていける距離。
たとえ貴族とか豪族が地方を治めているとしても、せいぜい首都から数カ月程度の距離までしか統治できないのか。
数カ月だって難しいのか。
兵の移動的に。
もともと一気に全滅するのを避けるために人口を分散させてるんだろうけど、それが移動の難しさに繋がっているわけだ。
うん、納得した。
「外国との仲はどうなんですか? その外交とか」
「いまでも交易がる国とは良好ですな。助け合わねば生きられませんから」
「森の先の国とは?」
「いまから100年前に森の侵食で連絡を取れなくなりました。最後にいつか我々はまた会うことを約束したと言い伝えられております」
「向こうは約束を憶えてるんでしょうか?」
年が壊滅して記録が散逸してたら憶えてるわけないよね。
「だとしても……我らは約束を守らねばならぬのです」
サーシャパパもこればかりは本気なのだろう。
俺もその本気には答えたい。
サーシャパパたちと通路を進む。
なにがあってもお触り厳禁。
防護服は脱ぐな。
それさえ厳守すれば安全に通れるはずだ。
実際怪我人も出ず出口に到着した。
ここまで来れば安全だ。たぶん。
一日かけて森を歩いて行軍する。
出口にキャンプを空輸。
設置して一晩過ごす。
もう防護服はいらないので脱いでもらった。
「婿殿、森がなければ人間は生きることはできませぬ。薪、動物などの食料、建築資材、なにもかも森からのめぐみです。ですが森に侵食されれば人は怪物に対抗する術はない。エルダーからすればバカバカしいと思われるかもしれませんがそれが現実です」
珍しくシリアスモードのサーシャパパが語った。
「俺は人類はよくやっと思います。俺たちの、セレナの最新の試算では人るを百年生存させればいい方。千年も維持したのだから優秀だったのでしょう」
「そう言ってもらえると助かります」
文明が牙を剥いた状態で生き残ったんだ。偉いと思う。
次の日、空輸したトラック、というか大型の装甲車で村を目指す。
航空写真から木のない場所、草原を通る。
運転席から眺める風景は悲惨の一言だった。
かつて村だった跡がいくつも見える。
森の侵食で化け物と生活圏が近くなり放棄したのだろう。
木造の建物は腐り、フェンスも朽ちていた。
石造りの建造物もいまや原型を留めておらず、畑もどこにあるかすらわからなかった。
途中、野生動物の襲撃にあいつつも逆に倒して手土産にする。
「ぐはははは! 猪よ! この装甲車の力を思い知れ!」
サーシャパパが重機関銃を撃つ。
相手は巨大な猪。
普通は獲物にしない大きさらしい。
だが今回は重機関銃がある。
トリガーハッピーでヒャッハーしてるおっさんにはいい獲物だ。
いや動物をいじめてるわけじゃない。
大型モンスターは狩れるときに狩っておかないと森が広がる原因になるとのことだ。
特に草原まで出てきてる個体は騎士団で始末しなければならないとのことだ。
倒したら解体。
これは俺より騎士の方が詳しい。
彼らが言うにはひどい状況のようだ。
こんな状況なら食糧不足になってるかもしれないとのことだ。
なので駆除しつつ村を目指す。
さらに次の日、俺たちはとうとう村に到着した。
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