第78話

 中に入るとそこは工場だった。

 工業区画は独特の雰囲気がある。

 例えば俺が働いていたサーバールーム。

 水冷システムだが静電気が引き寄せるのか常にホコリが舞っている。

 ここも同じだ。

 常にモーター音がし、作業用のドローンが行き交っている。

 修理用のドローンが施設を監視する。

 あちこちに監視カメラが設置され、俺も含めて工場のすべてを監視してる。


「セレナ、化学プラントに到達した。警備システムは今のところを俺を排除する気はないらしい」


「了解。お兄ちゃん、奥に侵入して」


 奥に侵入すると更衣室や事務所などがある区画にたどり着いた。

 中に入ると朽ちた作業着や対毒装備が置いてあった。

 ただ朽ちてはいるがドローンが掃除をしているのか汚染された状態ではなかった。

 ただ古いだけだ。

 昔の端末がある。

 技術部のAI嫁たちが作ったモバイル端末と古い端末を繋ぐ。

 端子を付け替えられるので作業が楽だ。

 古い汎用外部端子に差し込み電源を入れる。

 この小さな端末はここのサーバーですら比較にならないほど速い。

 あらゆるセキュリティは無効化され処理能力の暴力でデータを抜いていく。


「う~ん楽」


 くっころちゃんに丸投げして施設の権限を奪えば終了だ。

 あとはドローンとAI嫁がやってくれるだろう。

 戦闘以外は、ね。

 部屋の外に出てさらに奥に行く。

 目指すは地上部の出口に近い場所にある倉庫。

 そこに気配があるんだよね。

 倉庫の扉を蹴破る。

 すると声がした。


「来たか勇者よ。我こそは魔道を極めしもの。災厄の賢者にして人類を滅ぼすもの!」


 ああ、なんということだろう。

 俺はため息をついた。


「どうした勇者よ。我こそ魔王ジェイドである!」


 俺は声の主を指さした。


「おまえさん、いつからここにいたか憶えてるか?」


「なんの話だ? 我が王国から追放されたころだから……5年といったところか?」


「そうか。その身体は?」


「ふ、ふふふ。魔法の力により我は人間を超越した! どうだこの美しい姿を! 老いることも死すこともない! 完全なる姿を!」


「そうかい。ジェイド。あんたはもう死んでるんだ」


「なにをバカなことを。我は死ぬことはない! 無敵なり!」


 ジェイドの体は錆びていた。

 合金製のボディは半分朽ちて、中にあるアンドロイド用の人工臓器が見えていた。

 時代後れの合金製の顔はコーティングは剥がれている。

 機械の義眼はシャカシャカとモーター音を鳴らしていた。

 こりゃ5年どころじゃねえな。

 すでに記憶障害が起こってるようだ。


「ジェイド、あんた自分がもうすでに死んだってわかってるか?」


「ははははは! 我をアンデッドと言うのか! 吸血鬼どもと同じだというのか! あんな矮小な、愚かで弱い生き物と同じというのか!」


「俺には狂ったナノマシンと狂ったアンドロイドの違いなんてわからんよ」


 そう。

 ジェイドはすでに人間じゃない。

 人格をコピーされただけのアンドロイドだ。


「おまえも見ただろう? あのオーガを! あれは我の作ったものだ! 我は古代の英知、エルダーの文明を復活させたのだ!」


「英知ねえ。古代文明がつい最近滅んだって知ってるか?」


「ほう、おもしろい。話せ。おもしろい話であれば殺さないでやろう」


「つまらん話だ。お互いを皆殺しにするような兵器を双方ぶっ放して全滅。生き残ったのはこの星だけだ」


「愚か者め。エルダーがその程度で滅びるわけがない」


「いいや、エルダーはアホの集団だ。きっちり滅んだね」


「愚かな。もういい死ね」


 ジェイドが俺に向かって手を開いた。

 ナノマシンが集まり発火する。

 火は丸くなって俺に発射される。

 ま、当たらないわけだが。

 次の瞬間、俺はジェイドの目の前にいた。

 手を握り潰しその顔面に拳をぶち込んだ。


「あ、あががが……」


 俺の拳はアゴから首までを突き破っていた。

 これで死なないってことは、そもそも人間じゃない。

 人間のパーツはゼロだろう。


「ど、どうして……我は最強……」


 ああ、頭の中にスピーカーがあったのか。

 まだジェイドは話を続けていた。


「わ、我は最強の魔王……」


「すまんな。俺にも勝てないポンコツだ」


 貫通した手で首を通るコードを引っこ抜いた。

 ジェイドはすぐに動かなくなった。

 あーあ。

 吸血鬼のときも思ったが、この星では俺たちとは生死の基準が違うらしい。

 体の乗り換えはできないし、ナノマシンでも蘇生不可能な状態になればそこで終わりだ。

 この世の初まりから存在するようなものでもなければ、不滅はあり得ない。

 生と死は一対。

 それが俺たちの常識だ。

 死は無ではないが、個人の終わりである。

 魂が存在するかはわからないが、物理的に存在することはできない。

 AIですら死を免れることはない。

 サーバー上にいれば人より永い時を生きられるが、肉体を持てばただの人間になる。

 肉体に縛られるのだ。

 コピーは作れるのだが、基本的には違う存在である。どうしても同じにならない。

 肉を持ったAIをサーバーにコピーすると例え記憶を引き継いでも別の存在になってしまうのだ。

 魂が存在するかもと言われてる現象だ。

 だがこの惑星の常識は違うようだ。

 人には魂があり、肉体はただの器だ。

 器を乗り換えることは可能だと思われてるようだ。

 吸血鬼のときも思ったが、どうも嘘を吹き込んで現地人を殺害してからアンドロイドに置き換えてるやつがいるな。

 なんでそんなことをするんだろうか?

 うーんわからん。

 俺は首をひねりながら考える。

 だがわかるはずがない。

 まあいいや。任務に戻ろうっと。


「セレナ。出口見つけた」


「うん、じゃあ外の安全を確認して」


「ういー」


 車両搬入用のシャッターをこじ開け外に出る。

 出た瞬間、大型の爬虫類に遭遇した。

 大型。

 そうだな。トラックくらいかな。

 それが羽根を広げ牙を剥き出しにしてくる。


「うっす」


 悪い童貞じゃないよと手を振るがめっちゃ怒ってる。

 次の瞬間、嫌な予感がした。

 なんだかライフルで狙われてるときのような……。

 とっさに避ける。

 すると爬虫類が火を吐いてきた。


「おっと!」


 しかたない。

 正当防衛!

 一気に間合いを詰めて斧を首めがけてぶちかます。

 スパーンッと爬虫類の首が落ちた。

 あー、貴重な生物が。志乃ちゃんに怒られるかも。


「あー、セレナ。大型の爬虫類と戦闘になった。殺害したのでサンプル回収頼むわ」


「了解。施設奪還終了を確認したよ。お兄ちゃんお疲れ」


 さーて、帰ったらサーシャパパ起こそうっと。

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