第77話

 生き物を採取しつつ地下道を進む。

 今のところ毒まみれの生物しかいない。

 それでもある程度の量が取れたら志乃ちゃんのところにドローンで送る。

 謎の淡水二枚貝。

 シジミにしてはやたらでかい。


「あ、テトロドトキシンが大量に含まれてますね。食べなきゃ大丈夫です」


 淡水の巻き貝。


「コノトキシンの歯舌で攻撃……毒矢を射出するみたいですね。防護スーツの繊維は通りませんので大丈夫です」


 大きなカブトガニみたいなやつ。

 捕獲するときに抵抗したが一発殴ったら大人しくなった。


「トリオップス、カブトエビですね。尾に毒針があってそれで攻撃するみたいです」


 ……毒しかいないやん。


「泥なんかがあったら採取してください。微生物を調べます」


 というわけでスコップで採取しようと泥にスコップを刺す。

 すると泥がいきなり発光した。


「どわわ!


 ただ光っただけでもこんな驚くわ。

 すくって袋に入れると、ぷかーっと巨大なカブトエビが浮かんで来た。

 ピクリともしない。

 今ので死んだのか……。

 すると次々と生き物が打ち上がる。

 それを網で集めてドローンに乗せていく。

 なんだろう。かつてない地味な作業。

 セレナですら無言になっている。

 すると志乃ちゃんから連絡が入った。


「たいへんです閣下。泥に大量の化学物質が含まれてます。事故で流出したものだと思われます」


「千年以上も毒性を保つようなものなの?」


「いえ、流出事故の原因物質をバクテリアが分解した結果がこれかと」


「うおっふ!」


 なかなか酷い事故だった。


「じゃあどうする? 生物皆殺しにする?」


 たまにあるのだ。

 こういう事故。

 共和国に帝国、同じ人類なのでやらかしもだいたい同じだ。

 危険性がわかってないものを使ってあとでツケを払う。

 ナノマシンも同じだ。

 やらかしをどうするか。

 それは簡単だ。駆除である。

 少数のサンプルを採取して宇宙空間で飼育と維持。

 それ以外は一匹残さず抹殺だ。

 乱暴だが、もっと穏便な手段は確立されてない。


「プランター奪取後に絶滅プランの実施を提案いたします」


「プラン承認。それまでサンプルの採取を実施せよ」


「了解いたしました」


 方針が決まったので地味な作業終わり。

 先にプランターの奪取を優先する。

 地下道の奥に進む。

 水浸しの区域を抜けると大きな部屋に出る。


「お兄ちゃん、作業員が……」


 ほぼ朽ちて色すらもわからない服の残骸とともに白骨化した遺体があった。

 傍らには、ほぼ朽ちた樹脂製のフルフェイスヘルメットが落ちていた。

 ヘルメットは白く変色して原型を留めてない。

 これでも表面に経年劣化を防ぐコーティングがされていたはずだ。


「表面をスキャンするよ……出宇宙期の胎毒装備みたい。死因はおそらく毒。逃げ遅れてここで亡くなったみたい」


「ここから先は危なそうだな」


 先に進む。

 油圧式ドアが目の前にあった。

 なんだか嫌な予感がする。


「セレナ、奥に退避」


「人鬼の戦闘の勘は絶対だね。じゃあ逃げるわ」


 作業員とドローンが退避すると俺は特別にこしらえた斧を腰のホルダーから外し構えた。

 助走をつける。

 いち、にい、さんッ!!!

 俺は飛び上がり、回転しながら蹴りを放つ。

 特殊合金製のドアがひしゃげ飛んでいった。

 中に入った俺が見たもの。

 それは肉の塊だった。


「グガアアアアアアアアアッ!!!」


 オーガ型の人型労働生物。

 おそらくクレーン代わりとして使われていたのだろう。

 奥には人型労働生物のプラントがまだ稼動していて、オーガを産み出し続けている。

 さらに床に転がっているのはオーガの死骸。

 何千年間も共食いを繰り返してきたのだろうか。

 それが俺に牙を剥き今にも俺につかみかからんとしていた。

 オーガの手に斧を振り下ろす。

 斧はオーガの手を破壊し切り裂いた。

 飛び散る鮮血。

 俺は本能的に危険を察した。

 血をよける。

 血が壁にかかると、じゅうじゅうと溶け出す。


「おいおい、合金製の壁が溶けんのかよ」


 こりゃだめだ。

 俺は斧を捨てた。

 素手で一気に懐に入る。

 まずは足に蹴り。

 ドーンという音がして関節がもう一つできる。

 そのまま崩れるオーガの巨躯。

 俺は飛び上がりオーガの首めがけて足刀を落とす。

 ゴリッと音がして悲鳴すらも上げられずにオーガが動かなくなる。

 たいていの相手は頸椎か脊椎を壊せば動かなくなる。

 毒は気合で治せばいいし、そもそも血が猛毒なら血を流れないように壊せばいい。

 惑星日本の日本人ならみんな知ってる基本戦術だろう。


「はいはい。端末っと」


 俺は端末の前に行く。

 読めない文字で書かれているが問題ない。

 古代語はくっころちゃんのおかげで翻訳できる。

 端末を操作して人型労働生物の生産プラントをオフにする。


「ふう、ミッション完了……」


 つぶやいたのがフラグだった。

 つい先ほど殺したはずのオーガ。

 その遺体が起き上がったのだ。


「ハッ、笑える」


 俺は懐に入り、胸に掌打を入れる。


「ぐぎゃッ!」


 オーガが小さく悲鳴を上げて白目をむいた。

 古の武士は鎧の上から掌打で心臓を止めたという。

 出宇宙期前の第三次世界大戦。

 古武術家が日本から地面に掌打を放ち、ブラジルに攻め込んだ敵勢力司令官の心臓を止めたとの逸話がある。

 俺はそこまでの使い手ではないが、直接心臓を止めるくらいは簡単にできるわけだ。

 オーガが膝をついた。

 そのまま前のめりで倒れる。

 そろそろガキどもにこういう技も教えないとな。

 俺は斧を拾い背中に装着する。

 するとプランターが揺れた。

 生産途中のオーガ二体が起き上がる。


「うっわ」


 思わず俺は声を上げた。

 くっそめんどくせえ。

 俺はツッコミ一番手前にいたオーガの首に蹴りを入れる。

 ついでに背骨もへし折る。

 最後に心臓を止めトドメ。

 そのまま生成が途中だったオーガの背中に乗って背中から掌打。

 心臓を止める。


「終わったか」


 素人が管理してた施設のわりにやけに厳重だ。

 いったいこの先になにがあるんだ?

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