第75話

 数日後、防護服での地味な作業は続く。

 生き物を回収して志乃ちゃんに渡しつつ、発掘作業。

 プラントを手作業で堀りまくる。

 土や瓦礫は引火防止用の気密カバーをつけたドローンに運搬してもらう。

 体力的にはガスプラントに直行してもいいが、おそらく妻たちにはなにかの思惑があるのだろう。

 俺に知らせないってことは、まだ確定じゃないのかもしれない。

 なにせ空も地中も危なくてドローン使えないからな。

 俺もパワー抑えて作業しなきゃダメなんだって。つまんない。

 そこまでやっても引火したら表面の腐葉土から泥炭層まで一気に燃えるとのこと。

 歴史級の超大規模な森林火災だって。

 その炎は王都やアルフォート領の近くまで焼き付くし……って怖いわ!!!

 で、手作業よ。

 掘りまくっているとスコップに固いものが当たった。

 岩のような感触。

 火花が出ないように優しく掘る。

 すると油圧式のハンドルがついた扉が出てきた。

 ハンドルは腐食防止加工がされているのか原型を留めている。

 さすがに油圧はだめになっているだろう。

 ハンドルも動かない。

 ここでセレナに通信。


「セレナ、地下への入り口を発見した」


「お兄ちゃん、開けるね」


 ドローンが来た。


「アルミや銅じゃない。うんいけるかも」


 ドローンがなにやら液体をかけている。

 よく見ると昔ながらのサビ落しのようだ。


「大気中の毒素や土壌の成分を分析して化学反応を起こさないものにしたよ」


「あとはドローンでこじ開けるのか?」


「違うよ。お兄ちゃんお願い。ブルドーザーより力強いでしょ」


 なるほど。

 重機扱いね。

 ハンドルをにぎり一気に引く。

 サビ落しは俺の腕力でハンドルが脱落するのを防ぐためのものか。

 金属を曲げる音が響き扉がひしゃげる。

 今度は曲がった扉をつかみ力を入れて一気に引っこ抜く。

 扉と入り口を繋ぐパーツに蹴って壊すと扉が外れた。

 ひしゃげた扉を後方に投げ捨てる。

 中は密閉されてたのか劣化が少なかった。


「ドローンで中を確認するね」


 ドローンが中に入っていく。

 ここまでやっても地下工事は事故が多い。

 戦艦『ぱいせん』でもガス管や下水道でたまに死亡事故が起こったくらいだ。


「換気システムは完全にダウンしてるみたい。中は酸素が少ないから防護服は外さないで」


「常に可動するようなところは全部ダメか。って当たり前だよな」


 地下鉄もショッピングセンターも電気系統やコンピューターは生きていたが、常時動作するモーター駆動のものは壊れていた。

 そうなるよねえ。

 電気系統が二千年近く無事だったのはサバイバル仕様の頑丈さを求めた結果だろう。


「とりあえず復旧できないか試してみるね」


 いったん休憩。

 志乃ちゃんのところに行く。

 志乃ちゃん、生き物をバラしたサンプルの写真と報告書送ってきてくれるんだよね。

 コミュニケーション取っておかないと。

 志乃ちゃんのテントの中に入るとぱあっと笑顔になって寄ってくる。

 なんだろうワンコみたいな……。


「マコト様! 凄いんですよ! 毒を出す生き物! 解剖したら毒をカルシウムで固めた石が出てきました! 行動追跡ができるかも!!!」


「へえ、凄いね」


 と言ってはみたが実はよくわからん。

 電気とコンピューター、それもハードウェアのことしかわからん。

 下級工兵の教育しか受けてないからな。


「しかもこの子目が見えないんですよ! 洞穴生物かも!」


「はい!?」


「そういやさっき地下室を見つけたとか。小さいころだけ地下水から行き来できるかもしれませんね」


「なんてこった……」


 またグロ!?

 またグロ生物なの!!!

 俺がなにかした?


「しかもこの子、扁形動物……プラナリアだと思ったら甲殻類でした!」


 俺の背筋がぞわわっとした。

 え、やだ。

 あれ、エビの仲間?


「地球のムカデエビに似た生き物ですね。ほら見てください。この立派な毒腺」


「待って、つまり地下室は?」


「この子たちが待ってますね。確実に」


「空気ないってセレナが言ってたけど」


「地下水が流れ込んでるんで、奥は空気あるんじゃないですかね?」


 いまから楽しみで……いやねえわ。

 志乃ちゃんと別れて地下に向かう。

 志乃ちゃんは戦闘員ではないらしい。

 というか、セレナやくっころちゃんみたいなのは上級AIに区分される。

 上級AIは自分の身は自分で守ることを要求される。

 いちいち暗殺されてたらキリがないからだ。

 つまり戦闘員とそれ以外に区別されるわけだ。普通は。

 で、今度はパーティー編成。

 怪我されると今後の生活が詰むのでセレナは外す。

 保安チームと軍人チームから少数の戦闘員を選ぶ。

 接近戦の得意な子を五人だ。


「さあ行くぞ」


 今度こそ気合を入れて探索……と思うじゃん。

 ズドドドドって馬の音がした。

 このとき俺はなんだか嫌な予感がした。

 だってシャルロットちゃんもサーシャにも「死ぬから来るな」って言ってある。

 ガキどもにも「絶対死ぬから来んな」ってキツく言ってある。

 来るはずないわけだ。

 しかも馬。

 クラウザーくんは国が来させるわけがない。

 すると俺の関係者で来そうなのは……。


「婿殿ぉーッ!!!」


 サーシャパパが来やがった!!!


「アルフォート家だけに手柄が集中してることに気づきましたぞ!!! 助太刀いたす!!!」


 素直すぎる!


「騎士千人を連れて来ました! 必ずやお役に立つでしょう!」


 思わず「帰れ!!!」と怒鳴りそうになった。

 だが寸前でそれを飲み込んだ。

 察した、かなたがやってくる。


「閣下。半精霊のかなたと申します。ぜひ閣下のお手をお貸しください」


 かなたが手を挙げると秘書軍団が接待を始める。

 豪華な椅子に酒に飯。

 さらに助っ人の騎士も接待する。


「ほほう。美しいお嬢さん。この老骨も役に立つと言われますかな」


 あ、おっさん。若い子にチヤホヤされて逆に紳士モードになってやんの。

 おっさん、完全に手の平で転がされてる。

 いままでよくAIに支配されなかったな、人類。


「本気になったAI凄いよねー」


 いつの間にかセレナが横にいた。

 うししっとメスガキ笑いしてやがんの。


「おっちゃんの世話はしとくわ。お兄ちゃんは地下ヨロ」


「ういーっす」


 こうしてようやく地下に行けるようになったわけである。

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