第74話
パイプラインの残骸はすでに風化していた。
とりあえず残骸を分析する。
「一定条件下で耐用年数がすぎると有害な物質が発生することがわかって使用中止になった素材みたい。有毒なのが発売数十年後にわかったって」
「昔から人間は同じこと繰り返してるのな……って待て、一定条件下?」
「うん。この辺の気候で分解するみたい。で、この辺が汚染されて、その結果汚染に強い植物や動物しか住めなくなった……かも?」
「うわぁ……」
わざとじゃないだろうけど、起こした結果が悪すぎる。
出宇宙期以前にはよくあったらしいとは聞いてるけど。
「とりあえずパイプラインを修復しましょう」
というわけで清掃と修理。
残骸はとっくに潰れてる。
中も土砂で埋まっているようだ。
とりあえず余計な堆積物と壊れたパイプを取り除く。
元AIの妻たちがドローンを操作して清掃する。
そうだよね。
下級工兵の俺より専門家の方が作業詳しいよね。
よしダンゴムシでもいじめてよう。
としゃがみ込むが、ダンゴムシなんていない。
毒々しい色のコウガイビルがいるだけだ。たぶん毒。
とりあえず枝で横によけとこう。
と思ったらブシュッと液体を噴射した。
「青酸ガス警報。換気システムを強にします」
毒だったか……。
「なに余計なことやってるんのよ。お兄ちゃんって、キモッ!!! しかもこの毒、致死量じゃん!!!」
「俺もこうなるなんて思わなかったわ!」
すると眼鏡をかけたセレナと同じくらいの年齢の少女がやって来る。
「生物担当の志乃です。珍しい生き物がいたと聞いて」
セレナの悲鳴聞いて来たよね?
「お兄ちゃん、志乃ちゃんは生物技官上級AIでプランターの管理してたんだよ。ほら、虫パウダー入りの栄養バー」
「うんセレナ。虫はしかたないとして、鎮静剤と抗うつ剤入れてた件は死ぬまで忘れないからな」
百歩譲って手軽な栄養源として船内で飼育されてる虫や魚、謎のエビなんかはしかたない。
狭い船内で豚や牛を養殖するわけにはいかない。
パウダーにしたウジ虫も元が何かわからない培養肉も慣れっこだ。
それはいい。地上じゃないからしかたない。
だが薬を盛ったのだけは許さん。
「志乃ちゃんは関係ないって。あれは医官AIだし、悪いのは命令した共和国政府だよ。責任者誰一人生きてないけど」
ぐぬぬぬぬ。
すでに絶滅してたか。
「次は盛るなよ!」
「はいはーい」
志乃ちゃんは透明ケースに生き物を入れる。
「うーん、まずいかも?」
よく見ると生き物はケースの中でガスを吐いた。
そのガスを吸い込んだ生き物はひっくり返って苦しみだした。
「自分の毒でも死ぬようですね」
「普通そういうのって毒への耐性あるんじゃないの?」
「外にいる生き物ですので」
「閉鎖空間で生きてるわけじゃない、と」
そりゃそうだ。
その後、志乃ちゃんはいくつかの生物を捕獲した。
毒々しいミミズに、毒々しい蛾に、毒々しい甲虫。
哺乳類はいないようだ。
さらに植物サンプルも採取する。
「ほらマコト様、ご覧ください。菌類です。キメラとは違いなんて美しい生物でしょうか!」
毒々しいキノコだ。
キメラの動くなめことの違い、どう美しいのかはわからない。
残念ながら俺は素人だからな。
「おそらくこの惑星の原生生物ですね。DNAも地球型生物と合致しません」
さらにセレナと俺も加わってサンプル採取。
木の皮やら草やらも採取。
時間かかるな……。
まあでもゆっくりやろうか。
時間制限や納期があるわけでもないしな。
作業を続けていると軍服のアラーム音が響く。
「そろそろ帰らないとな。フィルター交換もあるし」
俺は化学戦用装備がなくても死なないけど、セレナたちは違うからな。
安全マージン取った方がいい。
俺たちは入り口へ引き返す。
入り口から少し先の安全圏にキャンプができていた。
俺はセレナに案内されて自分のテントに行く。
それはテントにしてはやたら豪華なものだった。
ベッド、テーブル、それに椅子。
通信施設まである。
そうか! これ上級士官用のテントだ!
うーん、生きてる間に使うことがあるとは思わなかった。
「どうよお兄ちゃん。この豪華テントの使い心地は?」
「偉くなったのを実感したわー」
「じゃあ行こうっか」
「どこによ?」
「生物班のテント」
嫌がったがセレナに連れて行かれる。
生物班のテントでは箱に入った生物の分析が行われていた。
志乃が説明をする。
「ナノマシンが撮影した画像から推測すると、やはりこの惑星の原生生物のようです」
「登録されてないの?」
地球型の惑星の生物や、記録に残ってる人工生物、既知の原生生物なんかはデータベースに保存されてるはずだ。
「未登録の生物です。昔は登録制度もありませんでしたし、昔はテラフォーミングした際に原生生物を皆殺してたようです。人間がいない惑星の生物は基本的に友好的な生物じゃありませんから」
「皆殺しって昔の人すげえな……」
「出宇宙期の入植は命がけでしたからね。手段は選んでられなかったようです」
「まー、昔の人を非難してる我々もいくつもの星を消滅させて絶滅したしね」
純粋な事実として。
「それで、登録したらそいつら逃がすの?」
と聞くと志乃はきょとんとする。
「解剖しますけど」
「ああ、うん、はい。毒あるから気をつけてね」
「ありがとうございます!」
志乃はすごくいい表情だった。
「セレナ……」
「私に振らないで」
「なんと言うか、マッドなサイエンティストはいつの世も一緒なんだなあと」
「理系AIはそういう傾向があるの!」
いろいろと納得できないが外に出る。
土木作業隊も帰ってきてた。
防護服を脱いだかなたがこちらにやって来る。
「マコト様。お風呂の用意ができてます」
かなたは笑顔だった。
なんか肌がツヤツヤした笑顔だった。
そのとき俺は、なんか嫌な予感がした。
根拠はないがなんか嫌な予感がしたのだ。
「……一緒には入らないからね」
「ええええええええー!!! 男の人がハーレムを築いたら一緒にお風呂イベントが自動的に発生すると資料に」
「なにその偏った資料!!!」
「かなた! 恋愛どころか女子とのふれあいすらなかったお兄ちゃんには無理だから!!!」
「セレナ! 追い打ちするのやめて!!!」
結局一人で風呂に入った。
ハーレムって難しくね?
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