第73話

 で、サクサク遺跡に移動って思ったら道が悪すぎた。

 木が多いくらいだったらバイクで素通りするところだ。

 だけど、途中からぬかるんだ樹海。

 戦車でもぬかるみでハマりそうだ。

 ナパームとか爆撃も却下。

 なんでも可燃性の地層なんだって。

 しかも同じく可燃性のガスがあちこちから出てる。

 山火事になったら手がつけられない。

 これが敵地だったら遠慮なく焼き払うところだ。

 でも将来的にここに入植することを考えるとガスは資源だ。

 ガスって便利なんだよね。

 未だに動力源にできるし。

 というわけで、ちょっとずつ作戦。

 ガスを計測しながら中間施設を作ってガス採取っと。

 たぶん、そういう施設から漏れてるよね。

 で、問題は。


「エルダーのやり方を知らない、命令を聞けない人は確実に死にます。なので今回は俺と半精霊の部下でやろうと思います」


 と俺は貴族たちの前で宣言。

 関係者一同、ガキどもやシャルロットちゃんまでがっかり。

 いやだめだって。

 火を焚いただけで死ねるっての。

 そもそもこの森の名前。「還らずの森」だって。

 入ったら確実に死ぬんだってさ。

 いままで何人も挑んだけど、ことごとく死んだんだって。

 でも騎士や貴族たちは納得いかない。


「死は武門にとって誉れ! ぜひ同行を!」


 と俺の前でいきり立つおっさん。

 防衛戦で領地を取られるのは切腹級の恥。

 攻め込んで死ぬのは誉れ。

 圧倒的に防衛戦が多いのに理不尽すぎるルールである。

 でもこっちも軍人。

 こっちにはこっちのやり方があるのだ。


「却下する。無駄死には国家利益のために許されない」


「ぐ、どうしても許されないのですか!?」


「だめだ。ガスよけの道具は人数分しかないし、教育を受けねば使いこなせない。失敗は己自身の死だけではなく森を焼き尽くすことが予想される。延焼はこちらまで来る可能性すらある。素人を使うことはできない。絶対に、だ」


 断言するしかない。

 結局、キメラなんかより自然環境の方が数倍恐ろしいわけである。


「ぐッ!」


 おっさんは悔しそうだが無理だ。

 二等兵でも新兵訓練で20時間は毒ガス戦の研修を受けるわけで。

 無理なものは無理。


「な、なにか、それがしにできることは?」


 翻訳すると、「仕事よこせコラァ!」である。


「戦神に祈りを捧げて欲しい」


 翻訳すると超マイルドな「おととい来やがれ!」である。


「わかりました。毎日祈りを捧げましょう」


 こっちは「てめえ後悔しても知らねえからな! ああ、コラ!」。


 喧嘩をしない喧嘩腰であるが、丸く収める方法は簡単。


「卿の祈りありがたく思う。神も喜んでいるだろう」


 偉そうにするのにもなれてきた。

 それにしても宗教って使いこなすともの凄いツールだなと。

 ほとんどの紛争を事前に解決できるじゃん。

 神様のせいにさえすれば。

 1ミリも信じてないけど。

 会釈しておっっさんが出て行く。

 ふう、なんとかなった。

 俺は日本語に翻訳した記録を読む。

 生きて帰ってきた男が残したものだ。

 森に入った瞬間息苦しくなったとか、なにかの襲撃を受けたとか。

 夜襲を受けて隊のほとんどが食われたとか。

 おかしくなって同士討ちしたとか。

 地獄みたいな記録だ。

 酸欠で幻覚でも見たのかな?


「ま、考えてもしかたないっか」


 というわけで探索に出発。

 安全圏までは車両を使う。

 環境が変わったあたり、植生が変わったあたりで降車。

 植物もこの辺の環境に適応した種類しかないわけだ。

 ガス戦用の装備で進む。

 消防士のさらにゴツイ装備だろう。

 電磁シールドとかも使えない。燃えるから。

 フェイスガードは透明樹脂。

 静電気が起きないように加工されてるもの。

 炎も毒ガスも通さずパルスライフルなら数発は耐えられるほど強い。

 だけど、自分の息で曇る。

 この装備、昔からアップデートされないのな。

 フィルターも静電気が起きない加工がされた吸排気システムもあるけど息苦しい。

 装備も静電気が起きないようになってる。

 繊維自体がアースになっていて、繊維の摩擦で帯電すると背中のランプが光って除電するとか。

 冗談みたいなギミックだが、それなりに使えるとのこと。

 夜間戦闘で後ろから撃たれないんか?

 地面から数センチ浮くフローティングボードに酸素ボンベも積み込んでおく。


「惑星日本の日本人だったら、フンドシ一丁で行って鼻をつまんでフンッて気合入れれば毛穴から毒素を排出できるんだけどな」


「できねえよ」


 相変わらずセレナは辛辣だ。

 でも幼年学校でやるじゃん。その練習。

 できないとカレー食った後に神経ガス噴射されて死ぬし。

 さてさて、武器は鉈。

 打ち合っても火花が散らないようになっているものだ。

 剣や刀でもいいけど短い方が取り回しがいい。

 俺は素手でもいいんだけどね。

 そもそも野外なんだから火花まで気を使う必要あるのかな?


「マコト様。大気センサー起動します」


 AI軍団の一人、大人しそうな女性が言った。

 手に持ったセンサー入れた瞬間にビービー警報音が鳴り響く。


「周囲に可燃性ガスが充満してます。それと毒ガスも」


「ここはコロニーのエネルギー生成施設だったのかな?」


 ガスでの発電プランターだろうか?


「調べてみましょう」


 と言うとドローンを展開。

 ドローンは地下に潜っていく。


「燃えないように低速モードで行きます」


 ここで数分待つ。

 その間に木やら土やらを彼女らは調べる。

 俺はスーツから水分補給モードで水を飲む。

 余計熱くなるわ。こんなん。

 一応、スーツ用エアコンはあるが息苦しさは変わらない。

 いっそスーツ脱ごうかな。


「お兄ちゃん。この木は油分を多く含んでるみたいだよ。火が出たら派手に燃えそうだよ。あと絶対スーツ脱ぐなよ」


 やっぱやめた。

 セレナの言うことはだいたい正しい。


「燃えやすいところに油分満載の植物って。燃えたらどうすんだ?」


「火で焼かれると種を飛ばす習性があるようだよ。ほら少し掘ると灰の層が出てくるでしょ。定期的に小規模な火災が起きているみたいだよ」


「えっとつまり、王国側が丸焼けにならなかったのは」


「単に運がよかっただけ。もしくは何度も焼けてそれでも生き残ったかなあ。大至急防火壁の建築を提案するよ」


「承認する。つうかはやく作ってあげて」


「だね。もしかすると王国側の記録にあるイフリートの大侵攻ってのが火災のことかも」


 なるほどね。

 そうとしか言えないほどの大きな火災だったと。


「よく生き残れたな。ここの人たち……」


「惑星日本なら」


「いいから変態の話は」


 ひどい。

 すると先ほどの女性が俺たちの方に来た。


「マコト様。出宇宙期のパイプラインの残骸を発見しました」


 やっぱりね。

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