第72話

 かなたはほほ笑んでいる。

 なんだろうこの笑い。

 コレクターが目当てのものが手に入って眺めて喜んでる感があるんだが。


「てめえ、かなた! なんだこの胸は!!!」


 セレナがかなたに襲いかかり胸をもむ。


「なぜだー!!! なぜうちのぺえを真っ平らにしたー!!!」


 もまれるぺえ。

 合皮の戦闘服越しに形が変わっていくぺえ

 合掌。

 素晴らしいものを見せていただきました。


「悟りを開いた修行僧のような表情やめてくれませんか?」


 くっころちゃん。

 いまだったら俺、時空を超えて人類を再生できる気がするよ。

 気がするだけだけどね。


「あまりにも素晴らしい光景だったもので」


「私のこともそういう目で見てるんですか?」


「くっころちゃん……オスってのはどこまで行ってもそういう生き物だよ」


 常にえっちな生き物なんだよ。

 生物としてそういう生き物なんであって、俺個人の責任はないよ。


「……まあマコトさんならいいですけど」


 意味深である。


「オラオラ! お兄ちゃんも加勢して!!!」


 セレナからの加勢要請。


「イヤでゴザル」


 だが断る!!!


「あ、てめ! ばか兄、裏切ったな!!!」


「いや初対面の女性にそういうことできねえから」


 と言うと、くっころちゃんが頬をふくらませて抗議する。


「私の胸はずうっと見てましたよね?」


「それは初対面じゃないじゃん!」


 というわけで、ごまかすためにもセレナを引きはがす。


「にゃー! はーなーせー!!! ぺえの仇ぃー!!!」


 完全に理性を失っている。

 いいや放っておこうっと。


「それで……かなたさんは、なぜここに? 最高裁判事AIなんでしょ。なにも汚れ役引き受けなくてもいいのでは?」


 するとかなたが頬を赤らめる。


「マコトさんの子どもを産むためです」


「ええっと、無理しなくていいんですよ」


 かなたさんのような大人の女性にモテるとは思えない。

 だとしたら任務に忠実なのだろう。


「無理なんて……最初から目をつけておりましたよ」


「最初?」


 おやー?

 なんか雲行きがあやしくなってきた。


「目をつけて?」


「ええ。それはマコトさんが5歳のとき」


 はいいいいいいいいい?


「幼稚園の偽装した人鬼の訓練所を破壊し。逆らう教官や現役人鬼を歯牙にもかけず。追手を再起不能にしながら森に立てこもり。人鬼を、惑星日本を壊滅状態にしたあのときから。本当は記憶処理も洗脳もしたくはなかったのです……はぁはぁ。ああ、愛しの我が王」


 5歳の男の子に目をつけ……。

 しょただああああああああああああああッ!!!


「たぶん違うんじゃね? 法律家が法律をねじ伏せる圧倒的力を見せつけられて壊れたんじゃね?」


「なにそれやだ怖い。セレナさん。逃げていいですか?」


 やばいやばいやばいやばい。

 と逃げようと思ったそのとき。

 サーシャがかなたに手を差し出した。


「貴女とは友だちになれそうですわ」


 ガシッと握手。


「世界に混沌を」


 サーシャが言った。


「世界に秩序を」


 かなたが言った。

 なぜだろう。正反対のことを言ってるのに同じセリフだ。

 よく見ると他の女性たちも俺を見ている。


「今回はマコトさん、いえ、マコト様の信奉者たちを選抜して送り込みました」


 俺はシャルロットちゃんの背中に隠れる。


「やだ怖い」


 するとシャルロットちゃんは切ない顔をした。

 なにその表情。


「大規模領地の当主候補がかかるアレだな。なあサーシャどう思う?」


「完全にアレですわね」


 なにアレって?


「セレナ安心しろ。年若い領主が陥る病気だ。症状は夜の生活を拒む、女から逃げる、意味もなく恐れる、だ」


「へえ、こっちではそういうの病気扱いなんだ」


 セレナさん。

 冷静に聞かないで。

 助けて。かなり本気で。


「ああ。よくあることだ。若い男がいきなり数百人の女をあてがわれる。わけがわからなくなっても仕方ないだろう」


「へえ、ここじゃそういうときってどうするの?」


「簡単だ。毒蛇の生き血を飲ませる。我が父も生前は常用してたほどの薬効だ。私は飲んだことはないが、頭がぐらぐらして顔が熱くなってカーッとするとか。たしか王都でも捕まえられ……」


「ストーップ!!! 足がやたら多い生き物とか足がない生き物飲ませるのやめてー!!!」


 解決法はまさかのドーピング!!!


「では毒虫に刺される方にするか」


「そっちはうちの父が常用してますわね。なんでもお酒と併用することで余計なことを考えなくなるとか」


「やーめーてー!!!」


「動物が嫌でしたら、製法の毒サボテンを乾かしたものを煎じて飲むとか」


 一番ヤベエやつ来た!!!


「あ、サボテンはうちらの法律で禁止だったわ」


「あら残念」


「ちょと待って、セレナ! シャルロット! サーシャ! それでいいのか!?」


「共和国人口統計で男女比10000対1だからしかたないんじゃね? 切実すぎて嫉妬すらしねえわ」


 こう見ると本当に共和国滅んだんだな……。

 なお戦艦『ぱいせん』の生き残り女性はすべてAIである。


「貴族の義務だ」


「貴族の義務ですわね」


「……お、おう」


 ジリジリと女性たちが間合いを詰める。

 いまここでおっ始めるわけはないのでネタだろう。


「まあ、先に我らを娶らねばな」


 とシャルロットが胸を張った。

 やだ正妻の余裕。

 トゥンクってときめいちゃう!

 本気でかっこいい。


「シャルロット、結婚しよう!」


「あ、うん、どうした? 国の準備が整えばすぐだぞ。あと半年くらいかな」


「お、おう」


 国が準備してくれてたのか。

 ぜんぜん知らんかった。


「100人以上のエルダーによる結婚です。世界に我らの威光を示し、永遠の繁栄をみせつけるものになるでしょう」


 サーシャはうっとりしていた。

 文化が違いすぎる!

 あと共和国も必死すぎる!

 もう考えるのが……めんどうになってきた……。


「よしゃー! もう100人でも1000人でもどんとこい!!!」


 俺の目はぐるぐるしてた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る