第71話

 で、ここで問題発生。

 大量の参加希望者が王都の家に押しかけてきた。


「そりゃいままでの実績から成功が約束されるからな……失敗しても名声が落ちることもない。それにマコト殿は名声にも権威にも興味がない。手を貸して自分の手柄にしても怒らない。野心のある貴族にとっては最高の条件だろう。もちろん中には義によって参上したものもごく少数いるかもしれないが」


「えー……」


 たしかに手柄は要らない。

 我々は人類の存続と発展を願っている。

 そのためには手段を問わない。

 本当に切羽詰まったら人道などガン無視する予定だ。

 クローンで増やすとか、60代のと10代で繁殖させるとか。

 だからローカルな名誉を他人に渡すのもいとわない。

 将来的な存続と反映に繋がればどうでもいいのだ。

 だけどイッチョ噛みしただけのヤツに手柄丸取りされるのは感情的にイラッとする。

 特にイッチョ噛みで偉そうにされるのはイライラする。

 それはしかたない。

 むかつく!!!


「じゃあそういうのは排除で」


 と言うとシャルロットに手招きされる。

 窓から下を見ると広めの庭が馬車と人で埋まっていた。


「嘘やん」


「下でサーシャとセレナが対応しているがどんどん増えている。貴族だけじゃない。主君を持たない騎士や従軍経験のある平民も大量にいる」


「それも出世のため?」


「騎士は公爵家への士官を目指してだろうな」


「え? 人手不足だから言ってくれれば雇うよ」


「そうはいかん。どこの家も人手不足だ。その状態で主君を持たないものの程度は知れている。むしろ別の家を追い出されたようなものが多い」


 あー、人材の質が論外なのか。


「平民は?」


「ほとんどがおもしろ半分だ。いざ雇うとなったら逃げ出すだろう。誰も死にたくないからな」


「本気で駆けつけた平民や騎士は?」


「親子ども兄弟、嫁、恋人などの近しい人を怪物に殺された復讐鬼だ。雇ってもいいが制御できると思わない方がいい。目つきですぐわかる」


「そういう人はダメ?」


 するとシャルロットはため息をついた。

 これは過去に失敗した顔だ。


「連れていったら勝手な行動を起こして周りを道連れにして死ぬ。後味が悪いし、士気が下がる」


「あー、志はいいんだけど迷惑なのね」


「マコト殿ならわかるだろうが、兵は冷静に勝手なことをせず命令を遂行しなければならないものだ」


 なるほど。

 そういう危なっかしいのはいらんな。

 下は「公務員で安定してるから」とか「給料が高いから」とかの適度に意識が低い方が使いやすいんだな。

 上は意識高い方がいいみたいだけど。


「じゃあ誰連れてく?」


「誰も。マコト殿の戦闘力や戦闘方法を理解し補助できるのは、カートマンたち候補生や私たち婚約者だけだ。他は足手まといだ。あえて言えば有力貴族の用意した兵だが……役に立たんぞ」


「ですよねー!!!」


 うーん、どうしたものか。

 一人で突っ込めばいいのだが、それで納得しない方々が増えてきた。

 家臣がいないのが原因だ。

 家臣が欲しい。

 いれば断るのも楽なのに。

 と祈った直後、セレナが部屋に飛び込んできた。


「た、たいへん!!!」


 セレナは手を振って説明する。


「かなたが来る! いや、みんなが来る! 体できたって!!!」


「え、ちょっと待って。かなたって最高判事AIだろ!? 留守にしていいのか?」


「あのクソアマ! モールの家を本庁に認定しやがった! 一緒に住むって言いやがった!」


 新たな仲間ゲット。

 でも一人だけじゃなあ。


「かなただけじゃないからね! 様々な省庁を担当する100人のAIがやって来るの!?」


「100人? ……え、やだ。頭の中読まれてない? 家臣欲しいなって思ったけど」


「盗聴にならない程度で読んでるに決まってるでしょ!」


「うそー!!!」


「あー、だから、宇宙海兵隊担当のAIが多いのか!!!」


「お兄ちゃん、気をつけてね。主に性的な意味で」


「性的な意味で!!!」


 え、なに?

 その急展開!?


「わかる。全員がお兄ちゃんの子どもを産むミッションに参加した連中だよ」


「いくらAIでもそういう人権無視ってどうなの!?」


「全員志願者だよ!!!」


「え……志願者って、セレナも志願者なの?」


 いままで「義務の可能性あるかも」と少し思ってたんだわ。

 え? 志願? マジで?

 するとセレナは顔を真っ赤にして俺をポカポカ叩いた。無言で。


「あのセレナさん?」


「うっさい!!!」


 あの……スンマセン。

 童貞には難しいミッションが多数発生してませんか?


「あのセレナ、どういうことだ?」


「エルダーの生き残り、私と同じ半分精霊の女性たちがこっちに来るんだって」


「女だけなのか?」


「全員女。どいつもこいつもお兄ちゃんの貞操狙ってる」


「……それは壮絶だな。英雄の素質というか、女が寄ってくる体質というか」


 正直言って、童貞にはどうすればいいかわからぬ。


「あー!!! 来るよ!!!」


 そう言ってセレナは窓から身を乗り出して怒鳴る。


「みんな建物に避難!!! エルダーの軍が来るよ!!!」


「なんでここに来るんだよ! モールじゃねえの!?」


「こっちも出張所に登録したの!」


 天から降りてくる火の玉が見えた。

 定員150名。中型の降下艇だ。

 それがこっちにやって来る。

 降下艇のハッチが開き、バイクに乗った戦闘用プロテクターで武装した兵が降りてくる。

 宇宙海兵隊名物、空挺降下だ。

 式典とか宇宙海兵隊フェアでやるやつ!

 この規模のは見たことない。


「すげえ! 惑星日本じゃ生身で降下はフンドシ一丁と決まってるのに!」


「お兄ちゃん、おめえんとこだけだよ」


 落下途中バイクのスラスターが火をふき、減速する。

 そのまま次々と着陸する。

 100名もの海兵隊員がそこにはいた。

 その中で一番派手なバイクに乗った女性がヘルメットを取る。

 眼鏡をかけた20歳くらいの落ち着いた印象の女性。

 とてつもなくスタイルがいい。

 だ、だめだ!

 見るな! 童貞が! 童貞がバレてしまう!!!


「最高裁判事AIかなた、以下150名。馳せ参じました」


 ふっとかなたがほほ笑んだ。


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作者は現在、上の奥歯がへし折れて治療中です。

治療が終わるまで投稿頻度が落ちますのでよろしくお願いします。

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