第70話

 ……という妄言が漏れまくった結果だよ。

 王都の自宅の方に貴族が押し寄せた。

 なんか偉そうなおっさんが来ては演説をする。

 おっさんによって内容は違うんだけど、共通点をまとめると、


「マコト様がこの国の頂点を目指すなら全力でお手伝いしましょう!!!」


「いや、ならないです」


「ええ、わかってますとも! 今はならないのですね! 怪物を駆逐したのち、兵を挙げるならばこの私が真っ先に馳せ参じましょう!!!」


 ……このおっさん。

 明後日の展開を予想してやがる。

 言ってないから知らないんだろうどさ。

 すでに俺は共和国の元首なんだって!!!

 で、この惑星は共和国に合法的に接収されたの!!!

 王より偉いの!!!

 王は惑星知事や領主。

 俺は銀河連邦の大統領。

 説明するのが面倒だから言ってないだけなの!

 すると、くっころちゃんが耳元でささやいた。


「嘘ついてます。マコトさんと王家の間でコウモリして利益を得るつもりですね」


「それってこれから怪物との戦争が減るって考えてるわけか。優秀じゃね?」


 一時的に平和が来て、その後は人対人の戦争が起こるってことを予測してる。

 うーんメチャクチャ優秀だと思うんだけど。


「潰しておくことを提案します。小賢しく自己本位な味方は足手まといにしかなりません」


「え、そこまでダメ?」


「王家との争いをあおってるので。あの発言から王家を倒そうという発想が出てくる時点で人格に問題があり、将来的に無能な味方になることが予想されます」


 なるほどね。

 優秀だけどその優秀さを自分の利益のためにしか使えないタイプね。


「じゃあ捕まえよ」


 俺がニコニコしながら手を叩くと近衛騎士隊が部屋に乱入。

 貴族を捕縛する。


「それにしても帝国って無能に厳しくない?」


 いくら出宇宙以前の倫理観だとしても無能即断は極端すぎるよね。


「あれぇ? 歴史に残ってませんか? 帝国は何度も無能のせいで滅びかけたって」


「へぇー。初耳」


「行きすぎた身分制と前例主義で無能が権力を持った結果、明後日の方向の政策だらけになったんです。最悪のタイミングで共和国と開戦したり、勝手に戦闘始めたり。略奪しまくったり。なので無能は見かけたら即抹殺と厳命されました」


「俺、帝国に生まれてたら抹殺されてたんじゃね?」


「え?」


「いやだから無能罪で」


「人型労働生物の都市襲撃をほぼ一人で解決したって聞いてますけど」


「惑星日本出身の日本人なら誰でもできるし」


「ええええっ!」


 するとセレナが部屋に入ってくる。


「くっころちゃん。何度も言ってるけど、お兄ちゃんは自分が無能だっていう洗脳されてるから無駄だから。お兄ちゃん、はいお茶」


「あざっーす」


「貴重な人鬼を無駄遣い。あの……共和国の上層部無能すぎるのでは?」


「共和国も帝国も無能だよ。だから滅んだんだし。そもそも人類皆殺し兵器なんてアホなもん作るくらいだったら、お兄ちゃんを繁殖させた方が効率いいってのに。10人もいりゃ戦争に勝てたでしょ」


「あのマコトさんのクローンを作る案は?」


 くっころちゃん、いまサラッと怖いこと言わなかった?


「シミュレーションでは失敗したよ。自然交配じゃないと戦闘力を維持できないみたい」


「ねえ、俺の人権は?」


「お兄ちゃん、絶滅危惧種の繁殖に人権なんてあると、思う?」


「ないッスね」


「生きてたら60すぎたメスとでもつがいにするところだよ」


 動物園で見たことある!!!

 本当に絶滅危惧種の扱いだ!!!


「つがいが美少女で感謝しろよ! お兄ちゃん!」


 たしかに60すぎのメスだけは避けたい。

 絶滅危惧種って偉いんだな。


「で、なんの話してたっけ?」


「無能死すべきだよ。お兄ちゃん」


「あ、そうそう。それで、王家はなんて言ってる?」


「王位が欲しけりゃくれてやるって」


「いらねえ!」


 既存の官僚機構を掌握できる気がしない。

 新しく用意できるあてもない。

 AIに全力で体を与えても従ってくれるわけがないよね。

 そもそも王になりたくない。

 ここは本音で語ってしまおう。


「公爵の地位のまま好き勝手やって官僚に尻拭いさせるのがベストだと思うんだよね」


「だよねー。うちら王をやるほど国への忠誠心ないし」


 王様なんて罰ゲームだよな。

 失策しなくても人生うまく行ってない人に無限に恨まれるし。

 頼まれても嫌だ。


「じゃあどうするんですか? マコトさんを王にしたい人たちは多いですよ。サーシャさんとか」


「サーシャは俺を王にしたいわけじゃないよ。世界が混沌ならなんでもいいんだよ」


「お兄ちゃんと一緒にいれば混沌は必ず訪れるからね」


「伝説の悪魔みたいに語られてる!」


「だいたい同じだよね? ねえ、くっころちゃん」


「ですね。対惑星兵器ですし」


 ひどい!


「それで、次はどうするの?」


「うん、ここに行こうと思うんだよね」


 俺は衛星写真を渡す。

 そこにあったのは物流センターと思われる建物。


「くっころちゃん、新しく発見された遺跡みたいよ。なんか知ってる?」


「ええ、モールに物資を運んでた拠点ですね。でも、ここモールの先で未踏破領域ですけど」


「そそ。でもさ、そもそも到達するのが難しいんだよね。トラック使えないし」


 モールの先は密林である。

 キメラだらけと推測される……。虫キライ。


「やっぱやめようか。虫いるし」


「ちょ! だめだからね! 人類の安全の確保は元首の義務!」


「ういーがんばる……」


 俺がんばる。偉い。ウホッ!

 こうなったら、この惑星すべてをさいたまにしてやる!

 友情努力勝利さいたまー!!!

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