第62話

 くっころちゃんによるシステムチェック。

 サーバールームの屋根は崩落。

 空調も施設放棄後一ヵ月以内に停止。

 というわけでサーバーの大部分が故障していた。

 データの読み込みすらできない状態である。

 密閉に近い状態で放置されていた各店舗の端末データだけは回収できた。

 お掃除ロボットや警備ロボットは残骸すら残ってない。

 腐食した金属部品が残っているだけだ。

 この時代の樹脂弱いなあ……。

 とりあえず中は確保した。

 あとは周りのキメラを倒せばいい。


「セレナ、警備ロボットを生産できるか?」


「最新式のが作れるよ。この施設に合わせるより、施設の修理して警備システムを入れた方がいいかも。サーバールーム丸ごとあるし。ねえねえ、シャルロットちゃん、ここ改造していい?」


 審議中。


「お兄ちゃんだめだって!!! 王様に許可とってからだって!!!」


 当たり前だろが。

 店舗のデータを照合すると、ここは帝国のコロニーだったようだ。

 どうも鬼瓦権蔵氏、不時着して帰れなくなったようだ。

 で、当然生存者たちはいくつかのグループに分かれてコロニーを作ったと。

 鬼瓦権蔵のグループは一般市民と軍人。

 ナノマシンの暴走と人型労働生物の反乱で駅と空港を失うも、子どもの代までは文明を維持できた模様。

 その後もがんばったけど、出宇宙前の古代文明水準まで後退。

 生存圏の大半を失いつつ、じり貧なれど人類の維持をしていたわけだ。

 SF小説のバッドエンドみたいな状態だったわけだ。

 で、一方ここは金持ちと取り巻きのコロニーのようだ。

 モノレールの開通をアテにして金持ちがモールを開いたものの、駅と空港は放棄。

 逃げてきた鬼瓦権蔵一行を冷たく追い払ったが、今度は自分たちがキメラの暴走で施設を離れた。

 と記録にはあった。

 その後のことはわからないが、まあ、おそらく生きてても他のコロニーの奴隷扱い。

 鬼瓦権蔵のところに泣きついたのならその場で殺されてもおかしくないだろう。

 地獄を見たことだろう。


「ま、頭よくて金と権力持ってても運が悪いとこうなるよね。俺も気をつけよう」


「お兄ちゃんは大丈夫だと思うよ。宇宙最強だし」


 え……?


「うん、兄ちゃんはその気になれば王国滅ぼせるしな」


 え……? カートマンまでなに言ってんの?


「うん、兄ちゃんが負ける姿とか思い浮かばねえや」


「だよね、ゴキブリ大量に用意するくらいしか思いつかねえや」


「それやったらお前らマジでぶっ殺すかんな」


 もう真顔である。

 マジで虫はやめろよ。


「やらねえよ。俺も虫嫌いになったし」


 へへ。鼻の下指でこする。

 見事な傷をなめ合いである。

 外に出るとすっかり暗くなっていた。

 照明弾を打ち上げる。

 後続部隊への合図だ。

 今日は野営だ。

 テントを組み立てる。

 キメラに襲撃されたら嫌なので電磁フィールド張っておこう。

 その都合でテントは男女の二つだけ。

 そこまでやるとへこんでいるシャルロットに気づいてしまった。


「な、なんでそんな落ちこんでるの?」


「マコト殿。私は自分で志願しておきながら戦わなかった。貴族として恥ずかしい……守らなければならない子どもたちがいるのに……」


「シャルロットはセレナとくっころちゃんの護衛してくれたじゃん!」


 と励ますが落ち込んだままだった。

 困った。

 でもキメラはな。

 強い強くない以前に見た目がグロい。

 戦わせるのはしのびない。


「じゃあさ、報告書の作成手伝ってよ。俺、こっちの方が苦手だから」


 と報告書を一緒に作る。

 細かい言い回しやら、単語を修正してもらいながら文章作成。

 端末でキメラの写真から線を抽出してレーザー刻印機で羊皮紙に焼く。

 なお羊皮紙はタンパク質から合成したフェイクだ。

 シャルロットは絵を一瞬で作ったのに驚いたが、「まあマコト殿だし」ですましてくれた。

 敵の詳細や館内マップ、破損箇所などを印刷して終了。


「うむ……完璧だ。こんな素晴らしい報告書を作れるとは思わなかった」


 シャルロットは満足げだった。

 機嫌が直ったのでヨシ!

 簡易キットの風呂を焚く。

 ちゃんとガキどもには「のぞいたらぶっ殺すぞ」と言ってある。

 ちゃんと言ったのにのぞく。

 エロガキどもめ!!!

 もちろん中には服を着たくっころちゃんが仁王立ち。

 風呂の外に逃げた四人を追いかける。

 見事な飛び後ろ回し蹴りでカートマンがノックアウト。

 鳩尾への前蹴りでスタンリーが。

 首相撲からのヒザ蹴りでケニーが。

 最後にカイルが普通のローキックで地味に沈められた。

 容赦ねえな。

 で、四人は正座で反省。

 俺の方を見るな。俺にはどうにもできん。

 するとくっころちゃん。


「マコトさんのぞきます?」


「いやでごわす」


 なぜか相撲取りになりながら拒否。


「あ、ずりー!!!」


「逃げやがった!!!」


「ざーこざーこざーこ!!!」


「うるせえ! 俺は紳士なんだよ!!! このドバカどもめ!!!」


 ガキどもと同じレベルで罵倒しあう。

 誰がのぞくか!!! ぶぁーか!!!

 で、くっころちゃんが飽きたら解放。

 メシをつくって食わせる。

 缶詰だがな!!!

 セレナのやる気がもう少しあれば手作りだったが、今やつはデータに夢中。

 缶詰を食って、女子が先に風呂に入り、俺たちは最後。

 だって汚いもん。

 軍服に洗浄機能ついてるけど気分的にね。

 で、休む。

 いちおう外のライトは全力でつけておく。

 朝になっても電磁シールドが攻撃された形跡はなかった。

 あれでキメラが全滅したとは思えないが……。

 で、朝食の携行パンを食べていると後続の部隊が来た。

 中を制圧したことを報告。

 で、俺たちの任務は終了。


 ……と思うじゃん。

 そしたら使者が来てこう言うのよ。


「陛下のご下命です! 『そこは公爵の領地になるであとは頼む』」


 よりによってここ!?

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