第61話

 心が疲れた。

 強い生き物。怖くない。

 毒や牙のある生き物。怖くない。

 足がたくさんあったり、やたら気持ち悪い外見の虫。無理。

 こういうのは理屈じゃない。

 無理なものは無理。

 で、焼き払ったホームセンターにはなにもなかった。

 水槽やケージには生き物なんていない。

 どうなったかは考えたくない。


「そもそもキメラがなんで人食いになったんだ?」


 くっころちゃんが解説する。


「もともと肉食性だったんですよ。ほら、熊とかライオンみたいな猛獣飼いたがる人ですね。当時、飼い主が食べられたとか、野良キメラが人を襲った事件が頻発してましたし」


「バカなのかな?」


「バカですよねえ……今は禁止みたいですけど」


 当たり前だよね。

 とある意味安心しながらホームセンターの外の半分焼けたベンチに腰掛けて栄養バーを食べる。

 どんな環境でも飯を食える自分が嫌だ。

 しばらくするとガキどもが帰ってきた。

 涙目。

 いいじゃん漏らしても。


「初陣で漏らすのはよくあることだぞ」


「うるせー!!!」


 カートマンブチ切れ。


「れれれ、連中。ぶっ殺してやる!!!」


 カートマンの目が血走っていた。

 なめるなめられるがダイレクトに命に直結してる界隈はたいへんだよねえ。

 他のガキどもも火炎放射器持って鬼の形相である。


「キメラー! お、おめえなんて怖くねえぞ!!!」


 見苦しくてたいへんよろしい!!!


「食うか」


 とチョコバーを渡す。

 ガキどもはブチキレながらバリバリ食ってた。

 丸焼けになったホームセンターを離れる。

 アーケードの終わりに近づくと案内板が見える。

 よく見ると『風館』と書かれていた。かぜ? ふう?

 ふりがながないのでよくわからない。

 おそらくアーケードの名称だろう。

 奥の建物は『波館』らしい。たぶん『なみ』かな。


「ふんッ!!!」


 シャッターと自動ドアをこじ開けて『波館』の中に入る。

 中はガランとしていた。

 ただ床には葛が生い茂り、上を見上げると天井が朽ちて穴が空いていた。

 俺は双眼鏡を出してのぞく。

 やはりキメラがユラユラ揺れていた。

 見た感じ三匹。

 壁もたぶん壊れてるんだろうな。

 そこから進入したに違いない。

 さすがに先ほどよりは少ない。

 殺るか。


「おっし、やるぞ」


 と声をかける。


「うおおおおやってやるぜ!!!」


 カートマンは小声である。

 ひざが笑ってる。


「ぶっ殺してやるぜ!」


 スタンリーも小声である。

 うん、お前らがんばった。

 パルスライフルで頭を撃ち抜く。

 どうやら人間の頭部にあたる部位を壊せば動かなくなるようだ。

 あの辺に神経が集まっているのだろうか。

 三匹を機能停止させる。

 すると床中に這っていた葛が動いた。

 葛の葉の裏側には足がびっしりついていた。

 それがカサカサ動きながら逃げていく。

 ふう……。


「セレナ、すべて焼き払おう。今すぐ」


「落ち着け。学園長に施設渡すんでしょ」


 クソ、忘れてた!

 あー、もう、虫嫌い!!!

 もうしかたないのでレーザーソードを片手に突撃。

 完全に腰が引けてる。

 逃げる葛を切り裂いていく。


「うわあああああああんッ!!!」


「攻撃してる方が悲鳴上げてる!!!」


「うっさいカートマン! 援護しろや!!!」


 もうね、もうね!

 足に毛が生えてるのが本当に嫌!!!

 さんざん攻撃して追い払う。


「ふう、このキメラを改修してっと」


 遺体袋にキメラを入れる。

 さらに生き返っても出られないようにパスワードを設定。

 意地でも閉じ込める。

 運搬用地上ドローンを呼んで回収。

 ふう、精神的に疲れた……。


「兄ちゃん、その疲れた表情やめろ」


「おめーらだって、おっさんみたいなツラになってるやん」


 葛はいなくなっていた。


「そういや葛ってつるを伸ばす植物じゃん。本体は地下の塊根だったよな。ってことはあれは触手で巨大なやつがどこかに……」


「やめて兄ちゃん。そういう怖いこと言うの」


「ですよねー!!!」


 疲れて変な想像してしまった。

 やだなー。はっはっは。

 すると施設がぐらっと揺れた。

 やめて、フラグを最速で回収するのやめて。

 ベキベキと音を立てて屋根が崩れてきた。

 穴から棘皮動物の口のようなものが見えた。

 口の中には牙が無数に生えていた。

 やめて。

 その口の中に大きな目玉があった。

 それがぐるんと動いて俺たちを見下ろしていた。

 ほんとやめて。

 俺はグレネードを投げていた。

 同時に葛のつるが俺たちに向かって襲いかかってくる。


「ギシャアアアアアアアアアアアッ!!!」


 咆吼。

 あの目は発声器官でもあるのか!

 モールが揺れる。

 俺はレーザーソードでつるを切り裂く。

 次の瞬間グレネードが爆発した。

 塊根の口は閉じ、その隙間から眩い光と炎が見えた。

 パルスライフルを構える。

 出力を最大に。

 俺は息を止めてその瞬間を待った。


「ギウシャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 葛が口を開けた。

 俺は引き金を引いた。

 塊根が破裂した。

 四散した塊根の中には白い組織が見えた。

 それがいつまでもビクビクと痙攣していた。

 俺はそれにパルスライフルをぶち込む。

 葛は完全に動かなくなった。

 ふう……。


「葛の生体反応消滅。って言いたいところだけど、虫とか植物じゃよくわかんないや。気をつけてお兄ちゃん」


「マジッすか!!!」


 目視では動くものはなかった。

 俺は奥に進む。

 目指すはバックヤード。

 絶対狂ったAIいるだろ。

 むしろ狂ってないと考えられないだろ。あの造形!!!

 もうね、従業員以外立ち入り禁止のドアを蹴破り中に入る。

 おっと、人間の骨があった。


「遺体回収」


 遺体袋に入れてっと。

 ドローンを呼んで回収っと。


「了解。お兄ちゃん」


 やはり中はサーバールームだった。

 ここに腐れAIがいるんじゃねえかな。

 俺はセレナの端末を繋ぐ。


「データ送信してるよ。うん、モールの管理システムだね。くっころちゃん、制御して」


 ふう、お仕事いったん休憩っと。

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