第60話

 アウトレットモールの二階から下を見る。

 草人間が揺れていた。

 そこに例のなめこに寄生されたトンボが飛んでくる。


「キシャアアアアアアアッ!!!」


 と耳障りな音を立てながら草人間に襲いかかる。

 すると草人間の体がパカッと脳天から股間までが二つに割れた。

 そこにあったのは人間を思わせる歯。

 それがいくつも、明らかに人間よりも多い。

 さらにその奥から触手が伸びトンボに巻き付く。

 ビジュアルの暴力やんけ!!!


「キシャアアアアアアアッ!!!!」


 トンボは叫びながら触手に噛みつく。

 なめこからは緑色の汁が飛ぶ。

 緑色の汁が草人間にかかるとブシュッと煙を上げ草の一部が溶けた。

 溶解液のようだ。

 なめこのくせに生意気だ。

 だが草人間は触手を口の中に引っこめてトンボを丸呑みする。

 ぐちゅぐちゅと咀嚼音が響く。

 俺はカートマンの口を押さえていた。

 だって叫びそうになってるんだもん。

 少し落ち着いたので口から手を離す。


「ちょ、おま、あれ……」


「だから言ったろ。戦えば絶対勝てるけど気持ち悪いから嫌なんだって」


「おい、他の連中は……」


 スタンリーとケニー、カイルは青ざめた顔で失禁してた。

 口を押さえる必要もないわけよ。


「一回戻るぞ。着替えないとな」


「……うっす」


 要するにカートマンも漏らしたわけよ。

 俺は無事。

 自慢することではないが。

 トラックまで帰ってガキどもをセレナたちに預ける。


「うん、まあ、見てたけどあれはしかたないよ」


「安っぽい同情なんかするなあああああああッ!」


 カートマン号泣。

 俺はぽんっと肩を叩く。


「男の一生は失禁との戦いだ」


「そんな未来いやじゃあああああああッ!!!」


 泣いてるガキどもにシャルロットが優しく言う。


「気にするな。初陣ではよくあることだ。それに私でもあれは……怖い。歯が縦に並んでるのが無理だ……」


 ですよねー!!!

 大人でもあれは無理ですよね!


「セレナ、あれを見えない位置から焼き払う武器ない?」


「お兄ちゃん、ドローンでナパーム弾でもぶち込むぅ? 炎効果なかったら一気に襲いかかってくるかもしれないけど」


「……はいはい! 俺が行けばいいのね!!! いいもん、マコト強い子だもん!!!」


「急に幼児化しないでよ。わかったよ! ナパームぶち込む! お兄ちゃんはパルスライフルで援護!」


 くっころちゃんが手を上げた。


「あのー、たぶん大丈夫です。ナパーム効果あります。この記事見てください」


 と脳内端末に送信されてきたのは「雑草の滅ぼし方」という記事。

 発行元は帝国広報。

 中身を要約すると「キメラが暴れたらナパームで焼き払え」というもの。


「うん、ナパームで焼き払って。セレナお願い」


「はいよー!」


「シャルロットと候補生はここで待機。絶対出るなよ!」


「はやく帰ってこいよ!」


 男は心で泣くもの。

 荒れ狂う冬の日本海。

 男の背中にそっとかけた女の罵倒。

 ドM心にしみる……。

 泣くな男。泣くな男のど根性。


「寝言言ってねえでさっさと行け!!!」


 セレナに怒鳴られ火炎放射器とパルスライフル片手に飛び出す。

 だって行きたくなかったんだもん!!!

 心で泣きながら二回に。

 またホームセンターに到着。

 俺は火炎グレネードのピンを抜く。

 セレナのドローンが前を通り過ぎた瞬間、ぽいっとな。

 俺のグレネードが爆発する直前、ドローンからミサイルが発射された。

 一瞬で炎が広がる。


「ギシャアアアアアアアッ!」


 悲鳴なのかはわからない。

 ただやたら気持ち悪い声があちこちから響いた。

 俺はパルスライフを構えて草人間の頭部を撃った。

 草人間は体全体が口だから意味があるかは不明。

 だが頭の部分がもげて動きが止まる。

 そのまま爆撃の炎に飲み込まれていく。

 一定の効果があった模様。

 それにしても……。


「キモイ!!! キモイ!!! キモイ!!! キモイ!!! キモイ!!! きーもーいー!!!」


 セレナが叫ぶ。

 うん、わかる。

 しかもさあ、ここにいるとわかるんだけど、すっげえ臭いのよ。

 タンパク質と腐った野菜のにおい。

 それが一気に焼けたにおいが充満していた。

 俺は一心不乱に草人間を撃った。

 勝てる? そりゃもちろん。

 相手は強い?

 たぶんゴブリンより弱い。

 戦いたい?

 絶対嫌でゴザル!!!

 そのままホームセンターに炎が延焼する。

 焼けるホームセンターを見ながら俺は安堵した。

 もう、無理!

 周囲の草人間が燃えたことを確認してホームセンターの中に入る。

 中もなにもかも燃え尽きていた。

 キメラの反応はなくなった。

 俺はため息をついた。


「無理」


「がんばれお兄ちゃん!!!」


 ホント、無理。

 草と虫の合成とかホント、無理。

 シャルロットちゃんにやらせなくて本当に良かった。

 まだあちこちがブスブスと焼けている。

 見つけてはライフルで撃って消火する。


「お兄ちゃん、草人間は全滅かなあ。外にはいないよ」


 それは俺も見た。

 問題は中なんだよねえ。


「中は葛のキメラがうようよしてたみたい。今は大部分が燃えてるけど」


「了解」


 俺は中を進んでいく。

 とりあえず種が売ってて、まだいくつか燃えてなかったので問答無用で焼き払う。

 絶対キメラの種あるからな!!!

 キノコの原木コーナーも焼き払う。

 あんななめこを俺は絶対に認めない!!!

 進むとペットのコーナーがあった。

 さすがに俺の到着前、というか千年以上前に全滅してるだろう。

 さすがに疲れた俺は外に出る。

 半分焼けたベンチに腰掛け、ため息をついた。


「いくらなんでも反則だろ!」


 火炎放射器の燃料取りに一回戻ろうっと。

 キメラをペットにしようとか言ったやつを俺は許さない!!!

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