第59話

「虫きもいわー」と言いつつ俺は安堵していた。

 シャルロットの班。

 上級生なので会ったことはない。

 聞いた話によると精鋭らしい。

 だが連れこなくて正解だった。

 こんなん反則だろ!!!


「ねえねえ、この虫繁殖するの?」


 とセレナに通信で訴える。

 よく見るとシダ植物みたいなのに虫の足が生えた生き物がカサカサ動いている。


「繁殖はしないように作られてるけど、寿命がなくて無制限に大きくなるみたい。菌類だと山一つ菌っていうのもあるみたいだし」


「やーめーてー!!!」


「命名、キメラ。登録したよ」


「登録したよじゃなーい!!!」


 まずい。

 死なないけど精神がガリガリ削られていく。

 というか俺が虫が苦手なのがバレる。

 どうしてペットを犬猫にしないの!?

 かわいいじゃん!!!

 せめて金魚とかメダカとかネズミとか鳥とかさあ。


「珍しい生き物のマニアってのがいるのよ。毒のある生物飼いたがったり。気持ち悪いものを飼いたがったり」


「やりすぎじゃん! 見ただけでゾクゾクするわ!!! 気持ちよくない方のゾクゾクな!!!」


「美的感覚は人それぞれだから」


「くっそ、これ作ったやつおぼえてろよ!!! 絶対許さねえからな!!!」


 するとブーンっと羽の音がした。

 嫌な予感がしてみると拳くらいのサイズのトンボが飛んでくる。

 ただし背中には無数のキノコが生えてそこから触手と変な汁が……ぎゃあああああああああああああッ!


「キモッ! キモッ! キモッ! キモッ! キモッ! キモッ! キモッ!」


 さらにバスケットボールくらいの大きさのキノコに支配されたアリが無数に来るのが見える。

 いやアリじゃない。なんか足が不必要に多い。いやああああああッ!!!

 これ完全に嫌がらせだよね。

 ふざけんなよ……。

 ふつふつ怒りがわいてくる。

 俺は黙った。


「あれ……? お兄ちゃん、どうしたの? 返事して!?」


「消毒だ……」


「え?」


「汚物は消毒だー!!!」


 俺はトラックに乗り込み火炎放射器を装備し外に飛び出す。

 完全にブチ切れた俺を見たガキどもも火炎放射器を持ってついてくる。


「ヒャッハー!!! 汚物は消毒だー!!!」


 俺は周囲を焼き払う。

 キメラどもの

 もうね、無理。

 そんな俺をガキどもがあおる。あおりまくる。


「兄ちゃんがキレた!!!」


「うけけけけ!!! 虫嫌いだったのか!!!」


「ざーこざーこ!!!」


「うるせー!!! あんなキモいの無理だろ!!!


「兄ちゃん見てたら面白くなった!!!」


 ガキどもも火炎放射器を発射。

 周囲を焼き払う。

 喉が渇くほど周囲が暑くなった。

 汗をかくが火炎放射器で火傷することはない。

 ある程度軍服のシールドが防いでくれる。

 ピギーとかキュイーとか神経に触る悲鳴が聞こえてくる。

 一番嫌なのは焼けたにおいがエビそのものであることだろう。

 食える? 俺嫌だよ。

 だっって白い液がシューシュー音たててるし。

 毒じゃなくても気持ち悪い。


「お兄ちゃん、イナゴとコオロギならよく食べ物に入ってるのに……」


「元の形がない状態の食材とキメラを比べるな!!!」


「もうね、もうね! 気持ち悪すぎだろ!!!」


「だったら剣で葬ればいいじゃない」


「虫の中に突っ込むの無理!!!」


 もうね、絶対嫌なんだからね!!!

 カサカサはまだがんばって耐えられそうな気がする。

 だが粘ってるのは無理だ!


「あ、朗報。さっきのトンボと蟻。寄生してるのなめこの仲間だって。食べられそうよ」


「やめれ! なめこ食えなくなるやろが!!!」


 なめこは普通のプラントのでいいからな!

 あとなめこよりマイタケの好きだ。

 周囲を焼き払うと葛が逃げていった。

 もうね、俺のSAN値はゼロよ!

 葛が逃げたおかげで入り口が見えてきた。


「帰っていい?」


「ダメ」


「ですよねー!!!」


「あのな……マコト殿。どうしても無理なら交代するが」


「絶対やらせないから!!! 俺がシャルロットを守るから!!!」


 男なら死ねい!

 惑星日本の標語だ。

 いろんな所に貼ってある。

 いいもん。逃げないもん。

 マコト強い子だもん!!!


「お、お兄ちゃんがんばって!!!」


「がんばりゅ!!!」


「じゃあ俺たちと交代して……」


 とガキども。

 だめだ、お前らは道連れだ!


「男なら死ねい!!!」


「ひでえ!!!」


「うけけけ! お前ら男どもは道連れじゃー!!! 俺と一緒にキメラと戦えー!!!」


「バーカバーカバーカ!!!」


 と喧嘩をしながら入り口にやってくる。

 入り口は門のない開放的なデザインだった。

 商店街のアーケード風。

 屋根だけあって両サイドに店があるデザイン。

 通路の脇にある店は二階建て。

 今でもあるブランド店の看板が見える。

 案内板を見ると古い帝国語で「アウトレットモール」と書かれている。

 案内板の地図によると奥に本館があるようだ。


「お兄ちゃん、マップ登録したよ。気をつけて! ホームセンターコーナーが近いよ!!!」


「了解!」


 でもさ、「気をつけて! ホームセンターコーナーが近いよ!!!」だって。

 人生でそのフレーズ聞いたことある?

 様子を見ようと二階に上がる。

 服店が軒を連ねている。

 現在でも有名なブランドもあるな。

 なにせ俺が聞いたことあるくらいだ。

 するとセレナから通信が入る。


「へー、奥に縫製プリンタあるよ。コンピューター生きてたらデザインテンプレートダウンロードできるかもよ。端末繋いでみて」


 と言われたので電気のコントロールボックスにセレナが作った小型端末を繋ぐ。

 ケーブル剥いて中に繋いで、半田樹脂を周りにつけて、テープで絶縁っと。

 今度はくっころちゃんから通信が入る。


「データダウンロード。『ぱいせん』の縫製プリンタのデータに変換します」


「この辺の店の服のデータ、ダウンロードしたから」


 デザインが古くさいがそこはAIに修正してもらえばいい。

 いいものをゲットしたかもしれない。

 今度こそホームセンターを見てやろうと二階からホームセンターを見下ろす。


「嘘だろ……」


 ホームセンターの外の商品売り場に人間の形をした緑色の生き物がいた。

 人の形をしてるけど顔がなくて草っぽい。

 頭に花が咲いてるものもいる。

 草人間がゆらゆら揺れていた。


「どう考えてもベースが人間なのだが……」


 ビジュアルの暴力としか言いようがなかった。

 でも虫よりはマシだよね。正直言って。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る