第58話

 柔軟と基礎訓練をする。

 内容は普通だ。

 常識的な距離を走って、柔軟やって運動するだけ。


「し、死ぬうううううう!」


「ふざけんな! おぼえてろよ!!!」


「いつかぶっ殺してやる!!!」


「はい死んだ! 死んだー!!!」


 常識的だ。

 虐待じゃないぞ。

 むしろナノマシンもなく訓練する方が問題だと思う。

 ナノマシンのログ見たら複数の骨折を修復した記録があった。

 聞いたら殴られるのはいつものこと。

 殴る相手はスラムの大人。

 それと貴族家の騎士になる予定の候補生。

 誰かの班に入る前の基礎訓練でやられたんだって。

 学園の生徒はいじめをやってる暇はない。

 うちはワープロに表計算に会計ソフトで楽々書類作成。

 報告書すらAIが自動で書いてくれる。

 出力もレーザー刻印プリンタでサクサク。

 数秒で羊皮紙に印刷完了である。

 だが他の班は報告書の作成だけで半日潰すことも珍しくない。

 しかも案外見られている。

 俺とガキどもの遊びも目撃されていて、どういった効果があるのかの詳細を提出済みだ。

 そんな状態で生徒がいじめに加担するのはほぼ不可能だろう。


 だが候補生間のいじめは存在するとのこと。

 候補生から学園の生徒に上がってきた子に話を聞いてみた。

 騎士の家の子じゃないといじめられるとのこと。

 スラム出身者はたいていそこで弾かれるらしい。

 誰かの下につく前に間引きするんだって。

 バックに誰かいると候補生の班を管轄してる生徒が減点されるけど、フリーの状態なら潰し放題だと。

 完全に制度のバグじゃん。

 予算使ってるのにひでえ結末。

 さすがに骨折はやり過ぎだ!

 骨折させるならナノマシン使えと。


 シャルロットちゃんに相談しようと思ったが、絶対に殴り込みに行く。

 やめとこう。

 過去のことなので、どう仕返ししてやろうかと考え中。

 思いっきりくだらない手段で恥をかかせるのがいいだろう。

 ふと寮の部屋に爆竹でも投げ込んでやろうと思いついた。

 惑星日本名物早朝バズーカでもいいかも。

 こういうの好きそうなサーシャにいじめてるガキどものことを聞いてみた。


「あらあら。いい度胸ですね」


 と怖い顔。

 俺の出番はないらしい。

 俺はただ嵐が通り過ぎるのを待った。ある意味放置プレイである。

 なんか班の責任者が泣きながら謝罪されたので「ちょっと情報収集失敗したんよ。ごめんね」って謝っておいた。

 責任者悪くないもん。


「仕返しなんか頼んでねえし!!!」


 と今度はカートマンが顔真っ赤にして怒鳴りこんで来た。

 わかるんだけどさあ。


「お前らにくだらない仕返しさせようとして情報収集段階で失敗したの!」


「本音丸出しかよ!」


「だってサーシャに相手のガキのこと聞いたらもう終わってたんよ……わかるな。なにもさせてもらえなかったんだ……」


「お、おう、悪かったな」


 とアホなやりとりで相互理解を深めたころ、俺たちは遠征に出発した。

 バイクを使うのは苦痛だったし、馬車も嫌い。

 なので車両を発注した。

 輸送トラックである。

 なお組み立て式。

 セレナと喧嘩しながらエンジンやフレームを組み立てる。

 結構複雑なのよ。こいつ。

 その代わり、頑丈な上にエネルギージェネレーター搭載で数年は動く。

 で、交代要員としてシャルロットに運転を教える。

 ちゃんと免許も取得した。

 ついでに俺もこっそりバイクと普通免許と特殊車両を取得。

 これで俺はもう無免じゃない!!!


「当たり前だ!」


 とセレナに罵倒されながら行く用意。

 セレナとくっころちゃんはエンジニア枠。

 シャルロットと俺が運転手兼隊長。

 隊員にはナノマシンへの適合率が高いカートマン、スタンリー、カイル、ケニーを選抜した。

 現地の安全を確認したら後続部隊が来る予定だ。

 武器はパルスライフル。

 植物ミュータントの可能性がある。

 火炎放射器も持ってきた。

 あと一応軽機関銃も。

 あとはグレネードでなんとかなるだろう。

 防具は支給した。

 いつもの軍服フリーサイズと合金の装甲だ。

 装甲はあんまり意味ないんだけどね。

 本当は服にプレート入れてほしんだけど、文化の違いがあるのだ。

 百年くらい前の格好になってしまっている。

 ヘルメットは希望どおりフルフェイス。すっげえ派手。

 デザインも希望どおりだ。

 セレナとくっころちゃんは作業服。

 なお俺はいつもの軍服、以上。

 荷物とガキどもは幌のついた後部へ。

 最初は俺が運転。

 必死になってシミュレーターをやったおかげで恥かかずにすんだ。

 揺れもなく快適な旅である。

 日が暮れる前にテントを設営。

 体は軍服で洗浄できる。

 でも気分はよくないので二日に一回は風呂を用意する。

 二日ほどで森に着く。

 葛に覆われているのでここで車両を置く。

 と思ったが、なんか嫌な予感がした。

 シャルロットに運転を代わってもらい外に出る。

 そのまま葛をレーザーソードで切ってみる。

 葛がうねった。

 地面を這っていた葛が一斉に俺に襲いかかってくる。

 俺はそれをなぎ払う。

 通信入れて深呼吸してから。


「なんじゃこりゃ!!!」


「うちだってわかんないよ! いまデータベース照合すっから! ……ああん? 薬用植物とDNAが酷似? ああん?」


「あれ栽培してたの!?」


「葛根湯の原料だって」


 現代では漢方薬を選択する人は少ない。

 だがどの時代も自然派と呼ばれる人たちがいるものだ。

 そういう人たちのための高級品である。


「普通の葛でよくない?」


「増やそうとしたんじゃないかなあ。それで遺伝子操作したとか?


「なんで、こう、極端から極端に移行するかなあ!!!」


 といつもの茶番を演じているとガキどもがやって来てライフルを撃った。

 効果はあった。シュルシュルと音を立て葛が逃げていく。

 本当に植物か?

 普通に気持ち悪い。

 うん野菜が嫌いになりそう。

 くっころちゃんから通信が入る。


「あの……当時、虫と植物のハイブリッドが流行ってまして……


「なにそれやだ怖い」


 普通に寒イボものなのだが。

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