第57話

 学園に行くと生徒に囲まれる。


「マコト様! ぜひ我らに遠征への参加のお許しを!!!」


 えー。

 やだ危ないじゃん。怪我するよ。

 ナノマシンあっても危険だよ。

 職業軍人が最低ラインかな。

 シャルロットはパルスライフル使えるから特別枠だけど。

 だから「無理ッス!」って言葉が喉まで出かかった瞬間、顔見知りの近衛騎士に囲まれる。


「マコト様。国王陛下がお呼びです」


 そのままシャルロットたちいつメンと馬車に乗せられてえんやこら。

 やった来たのはほぼ実家。

 宮殿である。


「やっほー、マコトくん」


 と元気に挨拶するクラウザーくんと一緒に謁見の間へ。

 そこには王都やその周辺の貴族が集まっていた。

 王様は普段着じゃなくて正装。

 何事だ?

 俺が持ってきた宝石だらけの杖、儀仗を持った王様が俺をひざまづかせる。


「シロガネ公爵家マコトよ! 遺跡の調査を命じる!!!」


「拝命いたしました」


 とあやしい言葉遣いだったが、周囲は「なんと勇敢な!」と賞賛の声が上がった。

 俺に媚を売ってもしかたないと思うのだが。

 王族と言っても他人だし、政治的な派閥を作る意味もない。

 ディストピアを作るのでもなければ王様倒す気など起きないし。

 するとクラウザーくんが小声で教えてくれた。


「彼ら、マコトくんとこのお酒が欲しいんだよ」


 うん?

 そういやそんなこともあったなとセレナの方を見る。

 するとこっちも教えてくれた。


「作った分を友好的な貴族に配ってたんよ。地元経済に影響ない程度で。コスト安いし」


「今回は?」


「公爵閣下遠征記念で配るよ。今回で敵対派閥も消えるかなあ」


「敵対してる貴族なんているの?」


「若い子が活躍すると文句を言わないとすまない連中が出るのよ。やれ態度が悪いだのエレガントじゃないだのって」


「そいつら酒で黙るの? 死ぬ寸前まで文句言ってそうだけど」


「文句言わせないようにお仲間にだけ酒配るの。それでも難癖つけてくる頭悪いやつは……」


「頭悪いやつは?」


「サーシャちゃんとアリシアちゃんに頼んで潰してもらったよ」


 やだ怖い。

 敵対罪で社会的に終わらすとか……社会的だよね?

 宗教と武闘派ヤクザか。


 謎の式典が終わって解放される。

 サーシャが教えてくる。


「おそらく学園ではなく国家の功績にしたのでしょう。旦那様なら確実に成し遂げられますから」


 いつの間にやら呼び方が旦那様になった。

 結婚するからまあいいか。


「学園長の手柄を奪っちゃったね。なんか悪いことした気分」


「気にしなくてもよろしいかと。おそらく旦那様が動くことを国に教えたのも学園長でしょうね。まったく小狡い狐ですこと」


 サーシャは底冷えする表情でほほ笑んだ。

 ひえッ! ら、らめ、ゾクゾクすりゅぅッ!!!


「ドMステイ!」


「わん!」


 はい妹よ。

 ドMステイする。


「私は一緒に行くぞ!」


 すると茶番を見ていたシャルロットが参戦を表明。

 シャルロットなら足手まといにならないので大歓迎だ。

 問題は他のメンバーだ。

 俺たちが部屋から出ると貴族やら騎士やらが待ち構えている。


「マコト様、ぜひ我が息子を遠征の共に!」


「我が騎士団も参戦いたしますぞ!!!」


「どうか! どうか我が家に参戦の機会を!!!」


 なんて言われる。

 だけど正直言ってナノマシンを摂取した近衛騎士団か、学園の生徒じゃないと厳しい。

 あとアルフォート家とバルガス家の一部。

 正直言うとガキどもが一番強いんだよね。

 シャルロットちゃんやゴードンの兄貴レベル。

 でもやめとこ。なんかかわいそうだし。

 と納得したのに!


 馬車に乗るために外に出ると見覚えのある集団が。

 カートマンが率いるガキどもである。

 いつもの傷だらけの革鎧を着けている。


「おう、みんな。よくつまみ出されなかったな」


「あんたの家臣だって言ったらここに案内してくれた」


「家臣……なの?」


 当方に雇用した記憶はない。


「あんたの金で食わしてもらって、あんたの班だから寮に泊まれて、あんたに訓練されてる。子分か家臣だ」


「なるほど。で、忠義者の家臣はなにしに来たんよ?」


「俺たちを調査に連れて行け」


「え、やだ。死ぬかもしれんから連れてかない」


「おまえなー! 俺たちからしたら成り上がりのチャンスなんだよ!!!」


「えー……いいじゃん、公爵家うちに就職すれば」


 三食昼寝付きだぞ。

 なにせ俺はだらだら生きる予定だからな!!!


「バッカ、おめー! 目だった手柄もなくお前んとこの騎士になったら一生嫌がらせされるわ!」


「うっわ、めんどくせえ!」


「お前が嫌って言ってもついていくからな!」


「いいけどさ。あーもう、セレナ。戦闘服支給して。シャルロットの分も」


「はいはい。了解ッス。子守よろしくねー」


「誰が子どもじゃ! このツルペタ!」


 ぶちっと音がしような気がした。

 あ、こいつら死んだ。


「お前ら、屋敷ついたら裏来いよ。な? 巨乳を認めるまでぶちのめしてやるよオラ!!!」


「キャハハハハ! おめえ、俺たちと同じくらいの年だろ!」


 とオラついたガキども。

 あちゃー……。

 俺もシャルロットもサーシャもくっころちゃんも頭が痛くなった。

 一からナノマシンで作った体が弱いはずねえだろ。

 空港じゃまだなじんでなかっただけで。

 で、家に帰ると地獄絵図。

 そのままセレナとガキどもが裏に消えていく。

 ガキどもの悲鳴。

 俺が見に行くとセレナはカートマンに四の字固めをかけてた。


「うぎゃああああああああああああああああああッ!!!」


「オラオラオラオラオラオラ!!!」


 そのままロメロスペシャルに移行。

 あれ腿が痛くなるんだよね。

 完全に足を壊してくスタイルだ。


「巨乳! セレナは巨乳ですぅー!!!」


 ついにギブアップ。


「セレナ奥様な」


「おくさまー!!!」


 よく見ると全員泣かされていた。

 殴られた跡がない。

 全員殴りもせずにノックアウしたのか……。

 見事な共和国CQCである。


「うわあああああああん! 強くなったと思ったのに!!!」


「お前らなあ、喧嘩売る前に勝てる相手かどうか見極めようぜ」


 なんかかわいそうになってきたな。


「しかたないなあ。鍛えてやるよ。今度は真面目に」


「え? 今度は真面目に? 今まで真面目じゃなかった」


「当たり前だろ。遊んでただけって言ったろ」


「え? 嘘?」


「嘘じゃないって。これからダンジョンに潜っても死なないように調整するから。ちゃんと道具の使い方憶えろよ」


「嘘だああああああああッ!!!」


 というわけで本人たちの強い希望によって調査隊への加入が決定したのである。

 泣くなよ。そんなにうれしかったのか?

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