第54話

 キャンプは試合の中止で予定を繰り上げて終了。

 今は作業員が片付けする中、子どもたちが俺の配ったお菓子を食べている。

 俺たちも自由時間だ。

 学年ごとだったので終了してからシャルロットやサーシャ、それにセレナとくっころちゃんたちと合流。

 ついでに待機場所が遠かったクラウザーくんも合流した。

 ガキどもはクラウザーくんとこの子どもたちとおやつを食べ手に行った。

 うん? よく考えたらサーシャはキャンプ関係なくね?

 騎士でも領主でもないし、戦闘員でもないし。


「文官コースも戦争時の事務実習という名目で手伝いするんです」


 へぇー。

 全力で戦時体制だよねえ。

 平和になったら社会の仕組みが全部崩れそうで怖い。


「うちらもお手伝いだよ。低学年は簡単な治療を上級生に教えてもらいながらやってたんよ」


「マコトさん! そしたらセレナちゃんが、治療した子にナノマシン入りの消毒剤使い始めて! はわわわわ」


「いい? くっころちゃん、うちらのは人道的措置。わかる? 医療援助は共和国帝国ともに推奨してるんだよ」


 うむ、その通りである。

 絶滅戦争するほどの頭の悪さと中途半端な人道主義。

 それが我らというものだろう。うんうん。


「セレナちゃんがマコトさんに似てきた! それにここで猛威を振るってるコンピューターウイルスはどうするんですか?」


「だってシステム違いすぎて互換性ないし。くっころちゃんコンバートするのたいへんだったんだよ。処理能力の暴力でどうにかしたけど」


「ぐぬぬ。これが新型との性能差か……」


 シャルロットたち現地組はよくわからなかったようだ。

 説明せねば。


「くっころちゃんは千年以上封印されてたから、古い精霊の魔法しか使えないんだわ」


「だ、誰が幸薄そうな顔した熟女じゃ!!!」


 くっころちゃんのボケが牙を剥く。


「黙れロリ巨乳! ボケ散らかしたのはこのぺえか! この大きいぺえが諸悪の根源か!!! 少しよこせ!!!」


 なぜかセレナがくっころちゃんに襲いかかって胸をもむ。

 やだ混ざりたい。


「ひいいいんッ!」


 このままじゃダメだ!

 俺は無表情でシャルロットを見て、無表情を保ったまま無心で言った。無心だ無心。おっぱい。


「古い魔法でできた体だったから人間にするのに苦労したんだってさ」


「ほう、精霊の世界も技術の進歩があるのだな。それに比べて我らは徐々に衰退するばかりだ……」


「ま、これからは大丈夫じゃないかなあ」


 例の空港のシステム復旧も進んでるし。


「くっころちゃんが古の遺跡を修理してくれるから、これからどんどん世界はよくなるよ」


 ぱあっとシャルロットの顔が明るくなった。


「そうか! うん、よかった!」


 サーシャは相変わらず邪悪な表情をしている。


「それはマコト様の時代が来るということですわね」


 たぶんそれは違うんじゃないかな。

 にしても今回は上手く行ったぞ。

 平和的解決! やればできるじゃん!!!

 と自画自賛して数日後。


 ……俺といつメンは学園長室に呼び出されていた。


「マコト様。申し上げにくいのですが、なにかなされましたか?」


 いきなり核心に迫られた。

 まあいいか正直に言おう。


「キャンプに出場した子どもたちに精霊の祝福を授けました」


 訳:ナノマシン盛りました!!! ヒャッハー!!!


 なぜか学園長が頭を抱える。


「やはり……」


「なにかありました? 怪我人が出たとか?」


 副作用はないはずなんだけどなあ。

 あくまで自分の体で作り出したものだし。

 脳内チップも自分の体で作った成分で作り出すしなあ。


「逆です……」


「はあ?」


「逆です逆! 訓練で骨折するような怪我をしても次の日には治ってるんです!」


「精霊の世界の戦士に施すものなので。そういう効果の祝福です」


「ああやはり!!! 異常なほど素早くなってるとか木刀で木を切り倒したとか異常な報告が複数上がってるのです!!!」


 なぜかいつメンはみんな「やらかしやがった」って顔してる。


「うちの子たちだけが強くなっても平等じゃありませんからね。競い合って高みを目指して欲しいものです」


 学園長が机に突っ伏した。

 え? なに?


「そ、その、私の手には余ることなので陛下にご報告してもかまいませんか?」


「どうぞ。いいですよ」


 するとシャルロットが俺のすそを引っ張ってから耳打ちする。


「それってもしかして……」


「うん、シャルロットにかけた祝福と同じだよ」


 シャルロットはそろそろ全身の細胞が入れ替わる頃だから、惑星日本の一般人くらいの運動神経になってると思う。


「……学園長。申し上げにくいのですが……生えます」


「しゃ、シャルロットくん、なにが生えるのかね?」


「手足が切れても新しく生えてきます。それだけじゃなく訓練で体を追い込めば追い込むほど強くなります。息は切れなくなりますし、どれほど動いても食事を多く取れば疲れません。最初はポーションやエリクサーだと思ってましたが、明らかに効果が高すぎるので精霊の加護と結論づけました」


 とシャルロットが裾をまくる。


「これが生えてきた証拠です」


 新しく生えた腕と切断した部位との境にかすかに赤い線が走っているのが見えた。

 それすらも1年もすれば消えるだろう。


「な、なんと! ではエリクサーというのは……」


「シャルロットに使ったのは精霊が治療する薬だよ。今だから言うけど、それがエリクサーかどうかはわからないよ」


 とは言うが、たぶん旧型のナノマシンじゃないかと思う。

 ただコンピューターウイルスに感染して悲惨な末路を辿ったんじゃないかなあ。

 吸血鬼ってナノマシンに乗っ取られた人間だったら怖いな……うん、やめよう。


「は? ちょっと待ってくれ。じゃあ、マコト様と君が吸血鬼を倒しリッチも討伐したという噂は……その話半分で大げさに吹聴したものかと」


「ほとんど真実です。リッチを含めたほとんどをマコト殿が始末したというのが真相ですが。我々では祝福とエルダーの武器を持って吸血鬼とかろうじて戦えるといったところです」


「……なんてことだ。いつものプロパガンダだと思って過小評価していた」


「そのマコト殿はなにぶん……器が大きすぎて物事に頓着しない方ですので。『いいじゃん、近衛騎士団の手柄にしちゃえば』と言い出されて……」


 みんなが俺を見る。

 え? なに? やめてその表情。


「わかりました。この国の誰よりも戦闘に秀でているという評は正しかった。認識を改めましょう。ではお願いがあります」


「なんですか?」


「この遺跡の調査をお願いします」


 と差し出された地図と絵。

 そこに描かれていたのは……。


「ショッピングセンターじゃん」


 日系惑星名物。

 地方の巨大ショッピングセンターだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る