第53話

「しょ、勝負あり!!!」


 審判が慌てて先鋒に駆け寄る。

 相手チームも驚いていたが一番驚いていたのはカートマン本人だ。


「え? なんで」


 あー、もう。

 固まらなくてもいいじゃん。


「おーいカートマン! 礼!」


「あ、うん。ありがとうございました」


 礼をして下がらせる。

 で、俺は介抱するフリして先鋒の子に近づく。

 センサーで見るとちょいと怪我してた……肋骨折れちゃった。

 あちゃー。


「いててて……」


 俺は瓶に入った液体を取り出す。

 セレナと作った偽ライフポーションだ。

 判別は不可能!

 味はエナジードリンク味。

 だがナノマシン入りだ。


「治療しますね。はーい、ライフポーション飲んでねー」


 そう言って偽ライフポーションを飲ませる。

 回復用のやつで肉体強化効果もあり。


「え? もう痛くない!」


 ようこそ宇宙海兵隊へ。

 どさくさ紛れに我が班が倒した子も強化してしまうのだよ。

 なんでもそうだけど周りも強くなった方が面白くなるよね。

 ライバル重要。

 ……どうして俺には競い合う相手がいなかったのだろうか?

 まあいいや。

 俺はガキどもの所に戻る。


「カートマンよくやった。ちょっと木刀見せて」


 ぽっきり折れていた。

 そろそろ耐久力が足りないな。

 戦艦の外壁のコーティングでもしとこうか。

 うん、遊び相手の成長はうれしいものだな。

 と、うなずいていると他の子たちがブーブー文句言い始めた。


「ちょ、カートマン! なにしてくれたんだよ!!!」


「相手チーム本気になったぞ!!!」


「ホラ見ろよ! あの盾!」


 おっと、相手チームは装備を木の槍と鉄の盾に変更した。

 そりゃスラムの難民が相手で責任者は王族、俺に恥かかせないように忖度の一つもするよね。

 ところが相手が実力者だったので予定変更。

 今度は本気出さないと俺に失礼になる、と。

 俺の方見ないで子どもの方見て欲しいな。


「ま、盾くらい気にすんな。盾クソ強えけど」


 この発言にスタンリーがブチギレた。


「発言が矛盾しまくってる!」


「だから、盾はクソ強いけど、お前らはもっと強いんだって」


「兄ちゃん上段斬りしか教えてくれなかっただろ!!!」


「いいから、いいから。はいはい、楽しんでこい」


「鬼! 悪魔! 吸血鬼!!!」


 オーガと吸血鬼には会ったけど悪魔なんているのか。

 へー。

 スタンリーが文句を言いながら前に出る。

 するとカートマンが俺の横に座る。


「なあ兄ちゃん。俺、魔法の直撃を受けたはずなんだ。でも鎧がちょっと焦げただけだった。なんでだ?」


「そりゃ、お前が速すぎて位置がずれたんだわ。憶えておけ」


 と言った次の瞬間、カートマンの喉元に手刀を置いた。


「こうやって即座に攻撃できるものが接近戦じゃ強いんだよ。魔法は時間がかかりすぎるんだわ。距離を取った状態の集団戦なら魔法の一人勝ちだろうけどな」


 こいつらの攻撃を避けるくらいの身体能力があれば違うんだろうけど。

 それだったら剣で戦った方が強いよねっと。


 スタンリーが剣を構える。

 相手の中堅も槍を構えた。


「楽しんでこいよー!」


「うるせー! お前だけは絶対にその言葉言うなああああああッ!!!」


 まったく反抗期だなあ。

 あとでご褒美に黒づくめの美学ファッション渡そうっと。


「なあ剣でいいのか?」


 カートマンに反論しとく。


「使い方知らんだろ。逆に弱くなる」


「くそ! 言ってる内容が正しいのにすべて間違ってるから反論しづれえ」


「はじめ!」


 なんか疲れた様子の審判が声を上げた。

 スタンリーは突っ込んでいく。

 それしか教えてねえからな!!! はっはっは!!!


「バカの一つ覚えか!!!」


 と相手は盾で防御。

 あ、終わった。


「ふんがッ!!!」


 ちょっと豚っぽい気合だった。

 あとでちゃんと教えよう。うん。

 木刀が盾にめり込み、そのまま金属製の盾がひしゃげていく。

 ごんっと盾の本体部分が下に落ちた。

 相手は残った持ち手だけを見て唖然。

 スタンリーも唖然。

 なお木刀は折れた。

 二人は審判を見る。

 審判は疲れた様子で宣言した。


「双方武器損壊。引き分け!!!」


 ま、いいんじゃないの。

 槍突き出されたら判定で負けてたと思うし。

 効かないけど有効打判定されちゃうしね。


「引き分けってそりゃそうだけどさ……っていうかなんだあの力は……」


 スタンリーは礼をするとぶつくさ言いながら帰って来た。

 納得いかない顔だ。


「おう、兄ちゃん。説明しろ。なんだこの力は?」


「スタンリーとうとう気づいたか。精霊の力で体が損傷しても急速に回復するようにした。遊べば遊ぶほど強くなるぞ! はっはっは!」


「ちょ、おま! それ反則じゃねえの?」


「いんやー、訓練の効率と質を上げただけ。今はなにもしてない。戦ったのはお前ら。おめでとう! 次は初歩の技術編だな」


「よーし次は一番小さいカイル」


 と言った瞬間、審判が体の前で×の字を作る。


「道具の損傷が多いため試合中止! 班の総合勝敗は判定しない!」


「おう、終わっちまったな」


「ちょっと待てえええええ! おま、俺たちが貴族に恨まれたらどうすんだよ!!!」


 スタンリーが大騒ぎする。


「あ、大丈夫大丈夫。フォローはするからさ」


「フォローって?」


「ああ、向こうさんにお菓子を差し入れしとく。参加者全員にも中止の迷惑料としてその半分を渡しとくわ。お前らをよろしくねって」


「あんたさ……ずるいって言われない?」


「ずるは兵法の基本だぞー。それに喜べ、お前らは候補生から手を差し伸べるべき劣等生から最重要警戒人物に指定されたぞ」


「は?」


「当たり前だろ。誰もが俺が実戦経験者だからハンデで難しい子の担当になったって勝手に思い込んでたわけよ。それが天才の集団だった。これは面白くなるぞー。がーはっはっはっはー!!!」


「お、おま! てめふざけんなー!!! シャルロット姉ちゃんに言いつけるからな!!!」


「あーそういう態度!!! それずるくね!?」


「ずるは兵法の基本って言ってたのはお前だろ!!!」


「ぐぬぬぬぬ! だが俺はあきらめんぞ! お前らをゴブリンくらいなら鼻歌歌いながら始末できるようにしてやる!」


「その前に死ぬわ!!!」


「しーにーまーせーん♪」


 さーて重要なお知らせだ。

 俺が配ったお菓子食べたみんなー。

 宇宙海兵隊にようこそ!

 ナノマシン盛ったからなー!!!

 宇宙海兵隊は君の活躍を待っている!!!

 みんなで遊ぼうぜ!

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